この夏、熊野古道で有名な和歌山県田辺市本宮町の観光協会と複数の宿泊施設が、インターンシップを実施した。今回の取り組みを提案し、実現させたのが、本宮町の観光産業に関する調査をしていた大島さんだ。

本宮町を訪れ、現状を知る

本宮町は、2011年の紀伊半島豪雨で多大な被害を受け、復興後も風評被害の影響で観光客の足が遠のいたが、ここ数年は回復傾向にあり、特に欧米圏からの外国人観光客が大幅に増加している。そこには英語併記看板の設置など、受け入れ態勢を充実させる地域の努力があった。しかし、施設側の人手不足のため宿泊予約を断らざるをえないなど、悪循環に陥っている現状もあった。

大島さんは、人口減少と高齢化率の高さ、宿泊施設では働き手の確保が困難になっている現状を目の当たりにしていた。自らも現場実務を知るため、本宮町の宿泊施設や観光協会での研修を体験。これらの経験を生かして、地域の魅力を伝えつつ、将来的に地域で働きたいと考える若者を育てたいという地域の気持ちを組み込んだインターンシップを提案した。「学生が都会を離れ、しかも住み込みで働くことは並大抵なことではありません。しかし、地域を訪れ、地域の人と触れあい、地域を知ることは学生にとってもプラスになると確信していました。教育的な意義も見出しながら、地域の魅力も伝えられる新しい取り組みにしたかったのです」

前向きな地域から元気と勇気をもらい、そして今後の可能性を見出す

昨年の10月ごろから本格的に地域の方と話合いを始めた大島さん。学生には幅広い実務を経験しながら観光を核とした地域づくりを学んでもらいたいと考え、業態の異なる2つの宿泊施設と観光協会を組み合わせて研修できるようにした。いろいろな困難はあったが「前向きな地域の協力があったからこそ実現できました」と振り返る。



そして、観光実務や観光経営を学びたい、将来観光地域づくりに携わりたいなどさまざまな意欲をもった3大学7人の学生が集まった。立命館大学からは中国人留学生が参加。「彼女は中国語はもちろん、英語、日本語も堪能で、日々地域の方からの信頼も厚くなっていきました。また、彼女も働きながら日本の礼儀作法や地域観光を学ぶことができ、互いに良い影響を与えていたようです」と本来の狙い以外に、地域に外国人留学生の積極的な受け入れ需要があることにも気づいた。

都会とは異なる不便さに戸惑う学生もいたが、「スケジュールを崩す学生もなく、全員が責任を持って最後まで働いてくれたことは嬉しかったです」と手ごたえを感じていた。11月には関係者の方々を集め報告会を予定しており、学生にはこの夏の経験と本宮町の魅力をまとめて発表する課題を与えているという。

本宮町から世界へ発信する「おもてなし文化」のサポートへ

自らの研究から地方観光地の現実を学び、改善策を考え実践に移した大島さん。今後、本宮町が地方観光地のモデルケースになってほしいと願い、インターンシップのノウハウを地域、そして後継者へとシェアしていきたいと考えている。可能性を可能性のまま終わらせない本宮町へのサポートはこの先も続いていく。

PROFILE

大島知典さん

愛知県立旭丘高等学校(愛知県)卒業。文学部でイノベーション副専攻ツーリズムコース(当時)を選択し、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」について学んだのが本宮町との出会い。何度も訪れるうちに地域と親密な関係を築くと同時に苦慮している様子を知り「観光マーケティングによる地域再生」というテーマで研究を始め、経営学研究科に進んだ今も研究を続けている。将来はゼミの石崎祥之教授のような学生の目線に立った、親しみやすい教員を志している。

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