松巾さんは教師である父の勧めで、中学2年生のときに射撃を体験。2012年開催のぎふ清流国体に向け、岐阜県ではさまざまな競技の体験会が実施されていた時期だった。「バレーボール部に所属していたんですが捻挫してしまい、そのときに薦められました。練習しただけ結果として表れるのが射撃の醍醐味です」と魅力を語ってくれた。

中学生の競技人口が少ないとはいえ、競技を始めて3カ月後には全国2位と才能を発揮した。岐阜県の強豪高に進学後も全国で団体優勝、3年時には大会新記録で個人優勝、また岐阜国体では3位という輝かしい成績を残している。監督の誕生日である元日と修学旅行以外は、毎日練習に明け暮れていた高校時代。「練習も日課となり、苦痛と感じたことはなかったです」と振り返る。

将来は教師になり生徒を指導しながら競技を続けたいという夢のため、教員免許を取得でき、射撃でも全国を目指せる立命館を選んだ。持っている力を最大限出し切るために、自分を追い込み練習に打ち込んだ。結果、1回生時に全国で種目別団体優勝、2回生時に全国で個人優勝、世界にもチャレンジしている。「その時、世界との圧倒的な力の差を感じ、“必ず世界で活躍したい”と新たな目標ができました」という松巾さん。

退部後、重圧に勝ち、掴んだ自分の射撃

しかしその気持ちが空回りし、3回生になってから全国どころか関西でも勝てない日々が続いた。「何が原因かわからずただただ落ち込んで…。感情がコントロールできなくなり、精神的にも参ってしまいました。私が選んだのは退部という道。このままではチームにも迷惑をかけてしまうと考え、違う環境で練習することにしました」

立命館を離れ他大学、地元や大阪で、自分の射撃を探し続けていた頃、他大学の先生の言葉に助けられたという。「合計点を意識するんじゃなく、1発に集中し必ず10点をとる。そして射撃をもっと楽しんで。ピュアな心で」。この言葉が心に響き、常に10点を取るように心がけた結果、本来の自分を取り戻し、スランプを乗り越えることができたと振り返る。競技に前向きになれた今年の3月、立命館でもう一度競技したいという気持ちが高まる。「わがままな私を受入れてくれたメンバーに感謝の気持ちしかありません」。そして先日行われた第22回秋季全関西女子学生ライフル射撃選手権大会では、そのメンバーとともに5年ぶりの女子総合団体優勝を果たした。

全国で活躍する選手を輩出し、母校に貢献、そして恩師に恩返ししたい

卒業後は夢に描いていた通り、母校で教師となり、恩師とともに射撃を指導しながら、自身も競技を続けていくこととなった。「また休みが元日だけになりますが、なんの不安もありません。先生と一緒に生徒を指導するという夢が叶うんです。厳しいながらも射撃の面白さを生徒に伝え、楽しく過ごしたいです」とほほ笑む。競技中に見せる真剣な眼差しとのギャップ。そこが魅力でもある松巾さんは、この秋、大学生活最後の大会に挑む。信頼できるメンバーとともに、悔いの残らない、強い射撃をみせてくれるだろう。

PROFILE

松巾亜由さん

済美高等学校 (岐阜県)卒業。得意種目は10Mエア・ライフル(立射40発)。 2014年3月に実施されたISSFワールドカップフォードベニング大会(アメリカ)をはじめ、ISSF 世界選手権大会(スペイン)、世界大学選手権大会(アラブ首長国連邦)などに出場。文学部では、中本大教授のゼミで日本文学(徒然草)を学ぶ。計画的にスケジュールをこなすことが得意で、部活と勉強の両立させている。

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