2014年8月、徳島県で開催された英語交流プログラムに参加し、初めて牟岐町を訪れた河田さん。町の87%が山地で、自然豊かな環境が魅力だ。しかし町には高校がなく、子どもたちは進学のため町を出てそのまま戻らないなど、過疎化が深刻な問題になっている現状を知る。「子どもたちが夢に向かって町を離れていくのは止められない、だけど牟岐で育ったことを誇りに思い、故郷での思い出を大切にして欲しい」という地域の人たち。過疎化の現状打破はできないが、子どもたちが牟岐での思い出をたくさん胸に刻むためのサポートならできるのでは?と思い、英語交流プログラムに参加していた数名のメンバーで牟岐での教育・まちづくりの支援活動を始めた。

さまざまな世代の人と交流する場で見られた変化

河田さんたちは、地域に貢献するイベントを牟岐の子どもたちが企画運営し、地域住民が全面的にサポートする、町全体を巻き込んでの一大コミュニティをつくろうと考えた。子どもたちが企画した「むぎいろフェスティバル」は牟岐の魅力をふんだんに取り入れた企画となった。子どもたちは学年を超えて交流し、積極的にアイデアを出し合い、主体性や協調性を身に付けた。地域住民と一緒に考え行動する中で、地域への関心をより深めてくれたという。また、地域住民も、子どもたちのためにひとつになって協力し合った。

「活動を始めたころ、牟岐と関わりのない私たちの企画を地域の人たちが受け入れてくれるか不安でした。でも地域の人たちは、子どもたちの笑顔を見て、子どもたちの変化に気づいてくれたんです」と振り返る。今では学生たちの若い力が地域に溶け込み、親密な関係が築けているという。その他にも、宮城県女川町の小学校とスカイプを通じて合同授業を行ったり、徳島県内の高校生との交流を図ったりとさまざまな活動を実施している。

これからの地域創生のかたち

2015年2月、河田さんたちは今後も自分たちの活動を継続していくため「NPO法人ひとつむぎ(以下:ひとつむぎ)」を設立した。「牟岐の子どもたちが大学生になって、ひとつむぎの活動に参加してくれたら素敵ですね」と満面の笑みを見せた河田さん。ひとつむぎでは広報担当をしていて、さまざまな場所で牟岐の取り組みについて発信してきた。もともと人前で話すことに慣れていたが、相手に響くように伝えるために、牟岐のことや過疎化問題について理解するようになり、自身も大きく成長したという。地域創生は日本全体の問題、ひとつむぎの活動を成功例として、他の地域にあった地域創生の答えを見つけてほしいという思いも大きい。



15名でスタートしたひとつむぎ、立ち上げメンバーの多くは次の代にバトンタッチしているが、現メンバーが引き続き牟岐町に訪れ継続的な交流は続いている。河田さんは、牟岐での経験で見出した次の課題を改善していくために、この9月から「子ども食堂」の取り組みに参加し、新たな一歩を踏み出している。これからも、さまざまな場所で何が必要とされているか考え、解決法を導き出してくれるだろう。

PROFILE

河田麻実さん

岡山県立岡山城東高等学校(岡山県)卒業。中学、高校時は、英語のスピーチ大会に積極的に参加するなど英語が堪能。大学では平和ミュージアムの学生コーディネーターを務める。3年連続「+R個人奨励奨学金」に採択され、2015年2月、NPO法人ひとつむぎを立ち上げる。現在は先輩が立ち上げた「子ども食堂」の取り組みに参加。卒業後は海外の大学院に進む予定。

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