「幼少期、母と一緒によく聞きに行っていたオーケストラのコンサートで、迫力いっぱいに演奏しているバイオリニストにいつも心奪われていました。言葉では表現できない溢れ出る感情や思いを音を通して奏でられるのがバイオリンの魅力です」という山口さん。

小学1年から今日までバイオリンとともに歩んできた山口さんが、バイオリニストとして転機を迎えたのは、学部共同学位プログラム(DUDP)を利用し、ボストンのサフォーク大学へ2年間留学したとき。学業に邁進しながらも、ボストン・フィルハーモニック・ユース・オーケストラ (以下:BPYO)のオーディションに受かり、セカンドバイオリンのトップ奏者として演奏したことで大きく成長したという。

本場のオーケストラに触れ、音楽の本質を知る

12歳から22歳の学生で構成されているBPYOでは、週1回の練習と年3回のコンサートに加えヨーロッパやスペインツアーやカーネギーホールでの演奏会にも参加した。「現地での慣れない生活で不安なことも多々ありましたが、長年続けてきた音楽を通じてできた仲間が心の支えとなり、留学生活の活力となった」という。また、「小さい頃から学んできたのは正確な技術。でも、ボストンの街で出会った人々やそこで触れたジャズや多様な人種などの風を感じて、感情を表現することや自分の思いを音に乗せる楽しさ、それが人に伝わった時の喜びを知りました」という。「ボストン滞在中は、現地の小学校でボランティアレッスンや演奏もしていました。最初は楽器に興味を示してくれなかった子どもたちが、徐々に興味を持ち始め、楽しく音を奏でる姿を見ていると嬉しくて自然と笑顔になって…」と、改めて音楽の持つ力を感じたという。

アマチュアNO.1を死守したい

BPYOでの経験を生かし、帰国後は数々のコンクールで上位入賞している山口さん。2016年12月に開催された、第26回日本クラシック音楽コンクールバイオリン部門専門大学生の部で4位、翌年3月の第5回Kアマチュア音楽コンクール(全専攻形式※)第3位(1位・2位該当なし)、同月開催された、第11回セシリア国際音楽コンクールの弦楽部門大学生以上アマチュアの部では1位に輝いている。今は、8月に開催される大阪国際コンクールで上位入賞し、グランドファイナルの出場資格を取得するために、日々練習に励んでいる。

※弦楽器に関わらず、ピアノ、管楽器、声楽など、全ての分野が競う形式

音を楽しみながら、奏で続けたい

そんな彼女も、勉強と音楽の両立の難しさに直面したりコンクールで結果が出ない時期があり、「練習にたくさんの時間を費やしてきたのに…このまま続けていいのだろうか?」という葛藤の中、バイオリンを辞めたいと口にしたこともあった。「その時は演奏する“楽しさ”を忘れていました。諦めずに続けた結果、“楽しさ”をより強く感じるようになり、今は、バイオリンがなければ生きていけないくらいです。音楽が身近にあってよかった」と語る。さまざまな経験を積み、多様な価値観に触れられる大学生活で刺激を受ける彼女が奏でる音色は、彼女しか出せない唯一無二の音。「楽器の音色にその奏者の人生がでる」という彼女の言葉そのものだ。

「海外では仕事と両立してオーケストラ奏者としても活躍している人も多くいます。私も、どちらかを諦めるのではなく、好きな音楽と好きな仕事を両立し、生涯バイオリンを奏で続けていきます」。これからも彼女はさまざまな経験を重ね、多くの人の心に響く、彼女オリジナルの音を奏で続けてくれるだろう。

PROFILE

山口夏海さん

立命館宇治高等学校(京都府)卒業。祖母はお琴の先生で、自身も中学までお琴も習っていた。高校ではスーパー・イングリッシュ・ランゲージコース(現在のIMコース)に進学し、1年間の交換留学を経験。2016年7月から、病室で患者さんのリクエストに応え演奏や歌を歌い、不安やストレスの軽減、痛みの緩和、ライフレビュー(回想法)など精神的サポートをする音楽療法ボランティアのアシスタントを務める。現在は、経済開発分野を究めるために大学院進学を目指し卒業論文を執筆中。

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