ごあいさつ
2018年4月に開設された立命館大学食マネジメント学部に続き、2021年4月に立命館大学大学院食マネジメント研究科が開設されました。学部・研究科ともに、食の総合的な教育・研究を行う日本で初めての試みです。そして、これら斬新な学部・研究科を母体としながら、食の総合的な学術研究およびその成果の発表・普及を目的とする集まりが食マネジメント学会です。
21世紀後半への道筋が論じられ始めた2020年代に入り、世界は大きな転機を迎えています。食は、誰にとっても、どこに住んでいても、どんな状況になろうとも、毎日なくてはならない営みであるが故に、消費者の食生活スタイル変遷に伴う食の文化的・習慣的側面の変化と、持続的な感染症対策や気候変動対応を前提とした国際情勢の変容を通して新たに形成される世界的な食のあり方を論じる研究には無限の可能性が拡がっています。
かつては、食に関わる研究は、食材の生産を対象とした農学、食品の加工や機能に関する調理学・生化学、人体と食物の関係を調べる栄養学・生理学など、一次産業(農・漁業など)と二次産業(食品製造・加工など)を中心とした自然科学的視座にかたよっていました。
その後、1980年代後半から1990年代前半にかけて、食の文化的側面、食生活、食システム、食サービスを総合的に捉えて研究を進める動きが活発になり、日本家政学会食文化研究部会、日本食生活学会、日本フードシステム学会、日本フードサービス学会などが続々と設立されました。2013年に「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを受けて、2018年には、研究者だけでなくあらゆる当事者の関与による食の「知の統合」を目指す和食文化学会が設立されています。
いま、まさに世界が大きく変わろうとしているこのとき、食に関わる研究は、旧来の自然科学的視座に加えて、社会科学、人文学にも立脚しながらホスピタリティを志向するサービス経済・経営・文化的視座を併せ持った複合領域へとダイナミックに展開することで、食という営みを総合的に解き明かすという、これからの新しい社会のニーズに応えなければなりません。
立命館大学食マネジメント学部と食マネジメント研究科では、食の総合的な研究を行う学問領域を「食科学」と名づけ、本学会の機関誌のタイトルとしました。食の科学とは、自然科学の一部にとどまらず、食を扱う社会科学、人文学と自然科学を融合する学問領域として創り上げるという意味をこめた名称です。
本学会は、本学の教員、学生・大学院生・研究員、学外の会員から構成されていますが、機関誌は会員だけでなく、編集委員会が特に執筆を依頼した方、その他編集委員会が適当と認めた方を対象に、広く投稿を募ることとしました。本学会が、教員、学生・大学院生をはじめ、さまざまな人たちの「食の知」を対等な立場で議論しながら、食を総合的に研究していく場となることを願っています。