学びのスタイル

立命館大学スポーツ健康科学研究科は、2010年4月にスタートしました。開設1周年を迎えるにあたり、
3つの領域で専門性を追究する3人の院生に、研究や学びについて語っていただきました。
立命館でスポーツ健康科学を究める、その意義と魅力に迫ります。
皆さんは、本研究科に入学して1年を迎えようとしています。本研究科では3つの領域を柱に、学際的な教育を展開していますが、その中で印象深い授業はありますか?

後藤先生の授業「スポーツトレーニング特論」です。過剰な運動よりも、休憩しながら運動する方が効果的だという、合理的なトレーニングを学びました。また「スポーツ心理学特論」でカウンセリングの知識を得られたことが良かったですね。
橋本君が専攻するスポーツ健康マネジメント領域ではどうですか?
大友先生の体育科教育の授業では、グループ単位でスポーツ指導を実践しました。みんなでどのように指導すればいいかを考えながら、成果を得ることができました。将来、体育教員になって実践しようと思います。
二連木君は、刺激を受けた授業はありますか?
藤田先生の生化学です。毎週、英語の論文を2、3つ読み、発表するという課題が出されます。英語の参考文献15冊以上使って発表するという、ハードな課題もありました。先生のように国際レベルで活躍するには、クリアしなければならないことが多いと感じました。
藤田先生の課題は、本当に大変(笑)。ほかにも英語の課題というと、ゼミでは英語で発表することもあります。また「アカデミックプレゼンテーション」の授業を通して、英語でプレゼンテーションができるようになりました。
皆さんの英語のプレゼンを聞きましたが、修士課程1年目における標準的なレベルを超えた出来でした。他大学では博士課程後期で取り組むような内容だと思います。本研究科には世界レベルの先生がたくさんおり、頻繁に海外と交流していますし、また国内外から先生を招聘して講演や授業も行うなど、国際性を養う機会をたくさん提供しています。二連木君は、海外の国際学会に参加したそうですが、どうでしたか?
昨年6月にアメリカスポーツ医学会(ACSM)に参加しましたが、それまでは「英語なんか話せなくても生きていける!」と思っていました(笑)。学会では、周りはみんな英語で発表される研究内容を理解し、勉強している。それなのに自分は全くわからなくて……。自分の未熟さを痛感しました。
英語の重要性を肌で感じたことだと思いますが、この1年間で英語の実力は向上しましたか?
そうですね、1年前に比べると、だいぶ読めるようになりました。「読む」ことができないと、専門的な勉強ができないので……。今後は、英語で論文が書けるようにしたいと考えています。
現在進行中あるいは修士論文に向けて取り組もうとしている研究について教えてください。
「剣道の授業」に興味を持っています。関連する論文を調べたところ、これまで研究されていないことがわかりました。そこで剣道の授業における効果的な指導方法を検証しようと考えています。今は、修士論文に向けて指導計画、指導内容を精査しているところです。

僕が研究科に進学した理由は「運動することで、人はなぜ健康になるか」を究明したいから。そのため、筋肉が全く動かない状態である「筋不活動」を研究テーマにしています。疾病時のベッドレストや骨折時のギプス固定といった筋不活動は老化に似ていて、それらを研究することで「運動しないと不健康になる」ことを明らかにしたいと考えています。
運動しないことによる弊害を調べ、逆に運動の効果を明確にしようということですね。
僕は二連木君とは異なり、筋量の低下を予防するという観点から研究しています。今、取り組んでいるのが高齢者を対象とした運動教室です。特にストレッチやスクワットなどのレジスタンス運動、いわゆる筋トレにおいて、1回の運動と長期で運動した時を比較し、身体的な適応の関係性を調べています。
本研究科では、授業や研究だけでなく、国内外から国際レベルで活躍している講師を招いて、セミナーや講演会を実施しています。その中で印象に残ったことはありますか?
順天堂大学の田村先生の講演です。学部ではスポーツ科学を学んでいなかったので、筋肉の中にも脂肪があることを知って衝撃を受けました。「筋不活動」でも脂肪が増加するのではないか、という新たな視点が芽生えたことも大きな収穫ですね。
そのほかでは、名古屋大学の片山先生のプレゼンが印象的で、高地でトレーニングするよりも、「高地に住み、低地でトレーニングする」ことが、パフォーマンスに一番効果があると聞き、驚きました。
非常に興味深い内容でしたね。本研究科では、実践力を高める機会も設けています。3人ともさまざまな活動をしていますね。橋本君は「国内インターンシップ」を経験しましたが、そのときの印象を教えてください。
東京へ行き、教科書会社でのインターンシップに参加しました。教科書1冊つくるのに、大勢の先生が携わっていることが分かりました。10年に1冊というペースで作成していると聞いて、非常に丁寧につくっているのだと感心しました。現場に行かなければ、体感できないことだと思います。
貴重な経験でしたね。松谷君は「高齢者運動教室」で指導に携わってどのように感じますか?
指導するというよりも、人と人との触れ合いやコミュニケーションを大切にして取り組みました。最初は、参加者の方々から距離を置かれている感じがありました。でも少しずつ仲良くなって、信頼関係を築くことができたので、とてもいい経験ができたと思っています。
運動指導する上で、若い人とは違う点、高齢者ならではの難しさなどはありましたか?
長い期間をかけて、じっくりとトレーニングしなければいけないので、ケガには十分に配慮しました。若い世代では、何でもない運動でも高齢者にとっては難しい場合がありますから、ストレッチを入念にやるなど、よりきめ細かな指導が必要ですね。
松谷君は運動指導する中で、リーダーシップを養うことができましたか?

やっぱり指導者としては、しっかりと知識を付けて、参加者からの質問に答えなければいけません。その場で回答できなくても、持ち帰って調べる。そうして信頼関係を築いていくことが大切だと思います。3か月間の教室が終了する時に、参加者の皆さんからクリスマスパーティに誘われました。一人のおじいさんの「私たちは松谷学級の一期生だ」という言葉を合図に、皆さんが僕のことを「先生」と呼んでいただいて(笑)。とてもうれしかったですね。同時にリーダーシップの大切さを実感しました。
単に研究するだけでなく、その根底には人と人とのつながりがあるのですね。二連木君はリーダーシップが身に付いたという実感はありますか?
スポーツ健康科学研究科を含む全研究科の選挙管理委員長を務めたことです。それまでクラスやトライアスロン研究会でリーダー的役割を担うことはありましたが、選挙管理委員では知らない人もまとめるという初めての経験でした。メールでうまくコミュニケーションがとれなかったことも……。どのように信頼関係を構築するか、日々考えていましたね。その経験が自分のリーダーシップにつながったのではないかと思います。
僕は学部時代に所属していた剣道部で、たまに後輩の指導をしています。学部時代は自分の能力や技術を向上させることに夢中で、後輩にとっては相談しづらい雰囲気だったと思います。大学院でコーチングを学び、適切なアドバイスを送れるようになり、また部活動を引退して表情が柔和になったのか、後輩たちも気軽に相談してくれるようになりました(笑)。
本研究科では、授業はもちろん、課外活動においてもリーダーシップやコーチング力、コミュニケーション能力を高めることができます。皆さん、この1年で成長を実感できているようですね。
修了後の進路について、どのような希望を持っていますか?
体育教員になって、教育現場に貢献したいと思っています。剣道部の指導にも力を入れて、インターハイや全国大会で活躍できるようにしたいですね。
博士課程後期に進学するか、高校時代からの夢であるトレーナーをめざすかで迷っています。いずれにしても、ここで学んだ知識や技術を、より多くの人の健康に活かしていきたい。
僕は今、修士課程で学んでいて、自分の研究をより深めたいと感じているので、博士課程後期に進むことを考えています。国際水準の実績や経験を持っている先生方から、もっと吸収したい。そして、世界を舞台に活躍できる研究者をめざしてがんばります。
世界的な研究者をめざす上で、具体的にどのような部分を伸ばしたいと考えていますか?
一番大事にしているのは「人とのつながり」です。人を理解する、そして人の力を借りることが大切だと考えています。どのような職種でも、一流になるには、自分一人の力だけで可能かもしれません。しかし超一流をめざすには、人を信頼し、人と協力することが不可欠だと思いますね。
多様な価値観や幅広い視野を養う機会として、海外で学ぶことは有効だと思いますが、留学は考えていますか?
はい、博士後期課程の修了後に挑戦したいですね。
松谷君はこの2月、アメリカに2週間滞在し、さまざまな経験をしてきたと思います。そこでの収穫はありましたか?
アメリカでは英語を話せることが当たり前。他の国から来た学生の中には、3か国語を駆使する人もいました。大きな刺激を受けるとともに、英語の必要性を感じましたね。

海外経験は、英語の重要性を実感する貴重な機会です。私は博士号を取得後、文部科学省の研究員になり、コペンハーゲンに約1年半留学しました。デンマークでは、英語は母国語ではありませんが、研究活動の中では英語が使われます。母国語ではない英語がコミュニケーションツールになっていることを実感し、私も英語を一生懸命学びました。その時アメリカに留学していたら「アメリカ人は母国語だから話せて当然だが、自分には母国語ではないから」と言い訳をして熱心に英語を学ばなかったかもしれません(笑)。ただ、語学力を高めることは当然必要ですが、留学をして海外の優れた研究者と触れ合い、その仕事ぶりを間近で見ることが何よりも重要なのですよ。皆さんは、これから海外に出て行く機会がたくさんあると思います。ぜひ、積極的に視野を広げ、国際的に活躍していただきたいと願っています。
2011年3月9日、立命館大学インテグレーション コア
アカデミック・ラウンジにて
座談会メンバー紹介



