修了生の声

泉谷 瞬さん 日本文学

泉谷 瞬さん

後期課程 2015年修了
近畿大学 文芸学部 文学科 講師

ジェンダーの視点で現代文学を分析する男性研究者として、世の中に貢献したい

大学4回生で初めて知った文学研究の魅力。就職、退職後に大学院へ

大学3回生まで、私はごく一般的な大学生でした。適度に力を抜きながら単位をとり、就職活動で内定も得て、あとは卒業論文を書くだけ、そんな風に思っていたのです。ところが4回生でゼミに入り、中川成美先生の指導を受けて、私は大学での学びの面白さに引き込まれてしまいました。文学研究とは単に本を読むだけのものではなく、私たちの日常に密接に関わる学びだということを知り、大きな魅力を感じるようになったのです。

内定先に就職したものの、研究への未練がつのり、1年で退社して文学研究科に入学。研究の道で生きていくという大きな覚悟を持ってのことです。一人でコツコツ研究する厳しい毎日が続くと想像していました。しかし今振り返ると、大学院には楽しい思い出しかありません。ゼミの先輩との素晴らしい出会いがあったからです。

研究内容に関する議論を昼夜問わずに行ったのはもちろん、学会発表に関してアドバイスをもらった上、練習までつき合ってもらうなど、あらゆることを親身になって教えてもらいました。ちょっとした立ち話で時事問題に関する議論をしたことも忘れられません。教員採用への応募に関しても有益なアドバイスをもらうことができました。先輩とは今もつながりを持っています。大学院での人との出会いは私にとって大きな財産となりました。

ゼミ生を中心に様々な大学の若手研究者が集う研究会にて

ゼミ生を中心に様々な大学の若手研究者が集う研究会にて

男性の視点からは見えにくいジェンダー問題が、作品の分析からくっきり見えてきた

大学院時代に始まる私の研究テーマは「現代文学とジェンダー」。博士論文では、1980年代以降の女性作家の作品をジェンダーの視点で読み直し、特に「結婚」の問題を分析・検証しました。幼い頃から感じていた「大人になったら結婚するのが当たり前」と言われることへの違和感や問題意識と、現代の文学者たちが「結婚」というテーマに敏感に反応し、作品にしていることを結びつけて研究したいと取り組んだものです。この論文は書籍として刊行され、全国大学国語国文学会賞を受賞することもできました。

この研究を通して、結婚を中心とした現代の日本のジェンダーの問題、とりわけ女性やセクシャルマイノリティの人たちが抱えている問題が、よりくっきりとした形で見えてくるようになりました。それは男性の生き方を基準とした視点からは見えない問題です。ジェンダーをテーマに文学研究をする男性研究者はまだ少ないのですが、その一人として世の中に貢献したいと考えています。

これまで受けてきた多くの学恩を、自分自身でも還元していきたい

この春、大学の専任教員となり、研究活動を続けられる環境を確保することができました。ゼミでは学生の論文指導も行っています。飛躍的に伸びる可能性を秘めているのが大学生の時期。何かのきっかけで別人のように成長する学生の姿を見られるのは教育に携わる者として大きな喜びです。大学の運営に関わる業務もあるので、それぞれ頭を切り替えながら対応力をつけているところです。

大学内の研究室で授業準備

大学内の研究室で授業準備

目の前の出来事や状況を、安直なイメージや根拠のない情報をもとに判断せず、とにかく精査し、批判的な視点をもって接することを、私は大学院で学びました。「文学」というジャンルは、現代社会に必要のない、実利的ではないものとしてとらえられがちですが、私はそうは思いません。玉石混交の情報が大量に乱れ飛ぶ現在、本当に確かな情報とは何かを見極める目を持つことは非常に重要です。最初からフィクションとして構築された文学の成立過程、背景、作品構造の分析などを行うことによって、私たちは物事を多面的・複眼的に見る目、現実をきめ細かく理解する力を身につけることができるのだと思います。授業でも、学生にはまずそのことを実感してもらうよう努めています。

最近は、他大学の研究者からご依頼をいただき、共同研究の形で論文を書く機会も増えました。書評などのご依頼もいただくようになりました。それらに可能な限りお応えすることが、自分自身の研究の場、学生の学ぶ場を維持することにつながるのだと私は考えています。これまで受けた多くの学恩を、これからは私自身も還元していきたいと思います。

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