修了生の声

西山 集さん 考古学・文化遺産

西山 集さん

前期課程 高度専門コース 2019年修了
東大阪市役所
人権文化部 文化室 文化財課 勤務

市の文化財専門員として、
生涯をかけて研究する遺跡を見つけたい

発掘調査で昔の人の生きた痕跡をすくいあげられた時、やりがいを感じる

ものづくりのまち、ラグビーのまちとして知られる大阪府東大阪市には、縄文時代から弥生時代に移る時期の貴重な遺跡や資料が豊富に点在しています。大学院でその時代の土器を研究していた私も、修士論文の資料として市内の遺跡を分析したことがありました。今、その東大阪市で文化財専門員として仕事をしています。発掘調査やその調整役としての仕事はもちろん、指定文化財に関わる仕事、文化財展示施設に関わる仕事、小学校への出前授業などを通した文化財保護の啓発活動など、多岐にわたる業務に携わっています。

歴史講演会にて講演している様子

歴史講演会にて講演している様子

私の専門分野は埋蔵文化財調査ですが、仕事では建造物や美術工芸品など専門外の文化財も扱うため、常に幅広い勉強が欠かせません。また、研究を第一に考えることのできた大学院時代と違い、行政の一員となった今は、文化財を保護するという立場で、文化財の所有者や様々な関係者と話し合いながら物事を進めることに難しさを感じることもあります。それでも、自分の手で行った発掘調査によって昔の人が生きていた痕跡をすくい上げられた時はとても楽しいですし、大きなやりがいも感じます。

大学院時代の発掘調査で、地元の人と遺跡の価値を共有できた

大学院では矢野健一先生の旧石器・縄文ゼミに所属。毎年、夏休みは滋賀県米原市の杉沢遺跡で発掘調査を行っていました。ゼミとして長年関わっている遺跡です。縄文時代の土器や住居跡など集落の痕跡を発見するため、1か月間現地に泊まり込んで調査を行うものです。現地の文化財保護担当者と定期的に情報共有をしたり、小学生の発掘体験を指導したりながら、仲間と協力して発掘調査を進めていくのは、大変ですが貴重な経験でした。発掘調査には地域の理解と協力が不可欠なので、家主さんや調査地の地権者の方と交流したり、お祭りに参加したり、地域のさまざまな方と関わる機会を通して、人間的にも成長できたと思います。どんな人にでもわかりやすく説明し、興味を持ってもらえるような話し方や立ち居振る舞いが身につけられたことも、今の仕事に活きていると感じます。

杉沢遺跡では、美術家とのコラボによる「地中再現展示」も実施しました。ある区画で発掘された土器の破片を、すぐさま隣の公民館で展示するという企画です。公民館には発掘中の区画と同じ大きさの空間が設けられていて、発掘された土器の破片を、地中にあった時と同じ深さ、同じ角度と向きで次々と展示していきました。こうすることによって、発掘調査の状況をリアルタイムで見てもらうことができます。この試みをライブで見守ってくださった地域の方とは遺跡の価値を共有できたと感じましたし、地域で遺跡を守り、継承する素晴らしさも知ることができました。市町村での文化財保護の仕事を志したのはこれらの経験が元になっています。発掘調査に対する地域の理解を深めるには、アイデア次第でさまざまな方法があるということも学びました。この経験を今の仕事でもぜひ活かしたいので、今後、具体的な事業を始めたいなと個人的に考えています。

杉沢遺跡発掘調査にて、図面作成の様子
杉沢遺跡発掘調査にて、図面作成の様子
研究の合間の博物館めぐり
研究の合間の博物館めぐり
研究者として、大学時代からのテーマも掘り下げていきたい

仕事とは別に、学部時代から続けてきた研究テーマを一研究者としてさらに掘り下げていきたいと考えています。私のテーマは、縄文時代から弥生時代にかけての土器容量の変化から、稲作伝播のルートや広がり方を見ていくというもの。まだ思うようには進められていないのですが、仕事と、個人としての研究が、互いに良い影響を与えるものになるのが理想です。東大阪市には良い遺跡や資料がたくさんあるので、しっかり調査研究してその成果を市に還元したいですね。講演などを通して、歴史や文化財の豊富なまちとしての東大阪市をアピールすることにもつなげられればと思います。

将来の大きな目標は、生涯をかけて研究できる遺跡を見つけることです。学術上価値が高いものとして国から史跡の指定を受けた遺跡を、市が保護のために買い上げる場合があります。その遺跡を整備し、生涯をかけて研究する仕事は、市町村の文化財専門員にしかできないこと。いつかはこの目標を実現できればと考えています。

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