修了生の声

石川 大我さん 東洋史学

石川 大我さん

前期課程 高度専門コース 2022年修了
株式会社 早川書房 書籍編集部 勤務

編集者としてさまざまなジャンルの書籍を手がけながら、論文も書き続けたい

大学院在学中毎日行っていた古文字の書き取り。手を動かすことで発想も豊かに

子どもの頃から甲骨文字などの古文字に興味があり、大学でも古文字や殷代・周代の歴史を研究していました。週に1回の読書会などで親しく交流していた大学院生の姿を見て、自分ももう少し好きな研究を続けたいと思うようになり、大学院進学を決めました。古文字の分野は全国的に研究できる環境が少ない中、立命館大学には白川静記念東洋文字文化研究所もあり、研究に最良の環境があったことが文学研究科への進学を選んだ理由です。

大学院在学中は、白川静先生に倣って、毎日30分間、裏紙などに古文字の書き取りをしていました。実際に手を動かして文字の形状を記憶するのです。必要なら調べることもできるのだから暗記など必要ないという意見もあります。しかし、書き続けることが研究の発想を豊かにすることにもつながると私は考えていました。亀の甲羅に刃物で文字を刻む甲骨文字を書き写していると、同じ文字でも刻み方や字体が異なっていることに気付きます。そういった細やかな違いは、当時の人々も注意深く意識していたことであるとされています。文字を見ているだけでは実感しにくいこと。書くことによって、3000年以上前の人に近い気持ちを体験できたのだと思います。

古文字の書き取りをしていた裏紙のひとつ

古文字の書き取りをしていた裏紙のひとつ

立命館には蔵書の豊富な図書館があり、その蔵書の読み方に関して適切な助言をしてくれる先生や先輩がいました。私にとって文学研究科の一番の魅力はこの環境です。楽しさから寝るのを忘れて研究を続けたり、寝ても夢の中でアイディアをひらめき、作業を再開したりした思い出もあります。好きなことに没頭できた2年間でした。

書籍出版の企画と、論文を書く一連の作業は同じ

現在、出版社の書籍編集部で、主にノンフィクション書籍の企画・編集に携わっています。ひと口にノンフィクションと言っても、宗教、物理学、経済学と扱うジャンルが幅広いので、専門的知識を身につけるために勉強しなければならないことが非常に多くあります。翻訳出版も数多く手がけているので、英語力のトレーニングも欠かせません。ただ、勉強すること自体は苦ではありませんし、必要な知識は勉強すれば身につけられるという見通しもあります。幅広いジャンルを扱うことが自分の成長にもつながると思っています。

現在は書籍編集部でノンフィクションを担当。手にしているのはタラ・ウェストーバー『エデュケーション』の原書で、今年中に文庫版を刊行予定

現在は書籍編集部でノンフィクションを担当。手にしているのはタラ・ウェストーバー『エデュケーション』の原書で、今年中に文庫版を刊行予定

書籍出版の企画は思いつきでは通りません。売れる理由、出版する意義を、筋道立てて論理的に説明できるかどうかが重要だからです。大学院での研究で経験した、可能な限り多くの資料を収集し、適切に評価をおこない、導き出しうる中で最も妥当な結論を出し、論文を書くという作業工程は、そのまま企画を立てる仕事の流れにも当てはまります。大学院での学びは今の仕事にも十分活かされています。

現在も論文を執筆中

白川静記念東洋文字文化研究所の客員研究員として研究活動も継続しています。現在は大学院時代と同じく、非王卜辞(殷王ではない人物が主宰して製作された甲骨文)に関する論文を執筆しています。非王卜辞の研究は2003年以降に盛んとなった分野で、まさに百家争鳴という状況ではありますが、先入観を可能な限り排して研究したいと思っています。

これからも研究は続けていきたいと思います。誰しも色々な趣味があると思いますが、私の場合はたまたま研究が趣味になりました。客員研究員の立場で研究できるのは大変ありがたいと思っています。仕事との両立で時間の捻出が難しいのですが、研究の本分は論文を書くことだと考えているので、年に1回でも書き続けたいと思います。

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