修了生の声

Jin Chunyu(靳 春雨)さん 中国文学・思想

Jin Chunyu(靳 春雨)さん

後期課程 2019年修了
立命館大学
アジア・日本研究機構 専門研究員

豊富な一次資料が残る京都で中国文化の伝承について研究

中国の「詞」が日本でどう受け入れられたかに関心を持った

中国の大学で日本語を専攻し、日本の国立大学の大学院に進学しました。私の専門分野は中国の「詞」。宮廷で曲の歌詞として発達し、宋代に隆盛を極めた文学の一形式です。五言、七言など決まった形式のある「詩」と違い、一句の文字数が不揃いで、句数もさまざま。詩より複雑で変化が大きく、韻を踏む回数も多いのが特徴です。高校時代に授業で暗唱し、いい響きだなと興味を持ちました。

日本に来てから、詞は日本の文壇にどのように受け入れられたのかに関心を持ち、博士課程前期課程では日本で行われている訓読を主に学びました。日本における意味の取られ方、解釈のされ方が分かるからです。中国人としての理解とは違う面を発見し、カルチャーショックも受けながら、日本での読まれ方を学んでいきました。

博士課程後期課程で立命館に進学したのは、唐宋文学の研究者である芳村弘道、萩原正樹先生がおられ、日本で詞の研究ができる数少ない大学の一つだったからです。京都で学べることも魅力でした。京都は禅宗寺院の僧侶によって書かれたいわゆる五山文学の中心地であり、今も貴重な書物を所蔵する寺院が多く、宋代に留学した僧が持ち帰った漢籍もあります。例えば、東福寺にとても貴重な詞籍が所蔵されています。

中国では古い書物の多くが失われてしまいましたが、私は京都で多くの書物に触れながら、研究者としての基本的な調査方法を学ぶことができました。何百年も前に刊行された本、所有者の書き込みなどを直に目にするのは感慨深いものがあります。デジタルの時代ですが、実物を見る経験は何物にも代えがたいものがありました。

大学院では、主に宋代(960-1279)に隆盛を極めた「詞」を研究していました。2021年、“The 19th Asia Pacific Conference 2021”で、“Cultural Exchange of Ci Poems between China, Japan and Korea: Focusing on the Method of Transmission of Song Ci”という題目で発表しました

大学院では、主に宋代(960-1279)に隆盛を極めた「詞」を研究していました。 2021年、“The 19th Asia Pacific Conference 2021”で、“Cultural Exchange of Ci Poems between China, Japan and Korea: Focusing on the Method of Transmission of Song Ci”という題目で発表しました

先行研究の少ない分野だからこその難しさとやりがいがある

現在も、立命館アジア・日本研究機構の専門研究員として研究を続けています。小杉泰所長のご指導のもとで、多分野の優れた研究者とコミュニケーションをとりながら研究することによって、彼らがどのような視点で、どのような手法で研究を進めているのかを知ることができる、非常に良い環境です。

今は、明治期の日本の漢学者を取り上げ、研究しています。日本の漢学者たちが中国から伝えられた古い文学を受け入れ、自分なりの注釈を加えて刊行した和刻本漢籍は、漢籍であり、日本の文化でもある。そこが面白いところです。

現在所属している立命館大学アジア・日本研究機構の皆さんと討論を行っています

現在所属している立命館大学アジア・日本研究機構の皆さんと討論を行っています

日本では、詞の研究者が少ないため、先行研究が多いとは言えません。一つの研究が広く展開されるには、基礎資料の系統立てた整理など準備段階の仕事が不可欠。自ら開拓するのは難しく大変なことですが、やりがいも感じています。大学院時代に、文献調査と一次資料の正確な解読といった基礎的な能力を鍛えることができたのは幸いでした。

平井嘉一郎図書館で資料を調べています

平井嘉一郎図書館で資料を調べています

中国の大学院は、先生から指定されたテーマを研究することが多く、発表の場も少ないのが一般的です。私は自分の選んだテーマで研究し、学会での発表も経験することができました。それらの経験を通して身につけた問題意識、思考力、解決能力が現在の研究に活かされています。

中国文化の伝承について、中国人の私が日本で研究することに面白さを感じる

私の研究は「文化の伝承」に注目したものです。中国の文化がどのように伝承されているか。それを中国人である私が日本で研究するということに面白さを感じています。また、日本での漢文学のあり方は独特唯一。非常に興味深いものがあります。漢文は中国人から見ても外国文学のような存在。そんな他国の文学を学校で全員が学習し、故事の内容を多くの人が知っているなんて、日本だけのことではないでしょうか。

2019年「明治大正期日中韓文人詩詞交流研究国際学術研討会」が開催された後、日中韓の発表者及び中国文学・思想専修の先生方と大学院生との懇親会

2019年「明治大正期日中韓文人詩詞交流研究国際学術研討会」が開催された後、日中韓の発表者及び中国文学・思想専修の先生方と大学院生との懇親会

昨年は多くの学会発表を行いました。その内容をさらに深めるべく緻密な調査を行い、成果を論文にして多くの人に読んでもらいたいと考えています。

一覧へ戻る