修了生の声

佐藤 弘隆さん 文化情報学

佐藤 弘隆さん

後期課程 2019年修了
愛知大学 地域政策学部 助教

地域研究×デジタル・アーカイブで、
文理問わず多様な人と、地域に貢献できる研究を

祇園祭の地域文化継承をデジタル・アーカイブの手法も取り入れ研究

学部生の時、ゼミの先生に紹介され祇園祭の船鉾のアルバイトをしたことがきっかけで、祇園祭に関する研究を始めることになりました。先生や他の学生と一緒に船鉾の所蔵品調査を行い、大学院進学後は、船鉾町の方々と祭りの準備や食事などしながら時間を共にして信頼関係を構築。祇園祭の運営や町内の事情に関する詳しいお話を聞いたり、会議の議事録や古文書を見せていただいたりして、現代において伝統的な町内のコミュニティに新しいマンションの住民が入っていく経緯や、江戸時代後期の船鉾の運営、明治時代における船鉾の復興などについて調査しました。博士論文は、祇園祭をいかに地域で継承していくかをテーマに、江戸時代後期から現代まで大きく見渡した研究です。

船鉾の曳き手として祇園祭に参加している様子

船鉾の曳き手として祇園祭に参加している様子

船鉾以外でも、各山鉾町の方々には貴重な資料をたくさん見せていただきました。その時に、ただ見るだけではなく、情報技術を駆使したデジタル・アーカイブ化も同時に行うのが私の研究の特徴です。貴重な資料を、自分も、地域の方も、いつでも見られる形で残すことによって、地域に還元することができるからです。

立命館大学には、文理融合で日本文化資源のデジタル・アーカイブに取り組んできたアート・リサーチセンター(ARC)があり、文系と理系、様々な専門分野の研究者が出入りしています。研究にあたっては、ARCの先生方にもお話を聞きながら、必要なデジタル・アーカイブの技術やノウハウを取り入れていきました。地域の方から「この鉾を3Dで記録したい」と言われて、それができる研究室を紹介したこともあります。地域とつながる手段の一つとしても、デジタル・アーカイブの手法は有効でした。

地域に残る古文書をデジタル・アーカイブしている様子

地域に残る古文書をデジタル・アーカイブしている様子

京都の地域資料をデジタル・アーカイブしようと考えるようになったのは、大学のプロジェクトの一環として、ロンドンの大英博物館、ニューヨークのメトロポリタン美術館で浮世絵などの日本資料をデジタル・アーカイブ化する仕事を経験したことがきっかけでした。それぞれ数週間の滞在中、アーカイブのスキルを身につけられたのはもちろん、所蔵品を次々とデジタル・アーカイブして広く公開していくという海外のミュージアムにおける最先端の考え方に直接触れることができました。

「地域」を対象とした、幅広い分野の先生方との学際的な研究に期待

この春、愛知県で大学の専任教員となり、研究と教育に携わっています。大学進学前から、地域の歴史文化に関わる研究職は私の憧れでした。地域でフィールドワークをする研究者は多く、デジタル・アーカイブの研究も進んでいますが、両方に取り組む研究者はまだ珍しく、そこが私の強みだと考えています。今のポジションはまさにその強みが活かされてマッチングに至りました。

ゼミの学生を連れて犬山の城下町を巡検する様子

ゼミの学生を連れて犬山の城下町を巡検する様子

大学では、3次元地理情報システム(GIS)に関する授業を担当。当地でも地域に根ざし、地域に還元できる研究をしたいと思います。私が先生方の研究プロジェクトに同行して地域とのつき合い方や研究手法を学んだように、学生たちをなるべく地域へ連れ出して、一緒に研究を進めたいと考えています。

立命館で文理融合が当たり前の環境にいた私には、必要なら分野を問わずさまざまな人と連携し、デジタル技術も利用しながら研究を広げていくという発想が常にあります。所属する地域政策学部には、地理学や民俗学、観光学のほか、政治学や経済学、法学、情報学、健康・スポーツ、など幅広い分野の先生もおられるので、「地域」を対象とした学際的なプロジェクト研究ができるのではと楽しみにしています。

全国の祭りの分布や持続可能性を地図で可視化する研究にいつか挑みたい

今の目標は、祇園祭に関する研究を書籍として出版すること、そして今の居住地である東三河や遠江などで、祭、古民家、街並みなどの研究を行うことです。将来的には、全国に何十万とある神社における祭りの分布をすべてGISで可視化し、それぞれの周辺環境との結びつきから、祭礼運営の持続可能性検証するという壮大な計画も構想しています。一人ではできないことなので、全国で研究に携わる立命館の同級生に声をかけることも考えています。

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