修了生の声

哲学

栁川 耕平さん

後期課程 2020年修了
北海道大学
人間知・脳・AI研究教育センター
博士研究員

脳科学やロボティクスなど多分野の研究者と共に
「人間の意識」について研究

他分野の研究者から思いがけないものの見方を示されることも

今の勤務先は、脳科学、ロボティクス、哲学をはじめとしたさまざまな分野の研究者が集まり、お互いの知見を出し合いながら「人間の意識」について考える研究所です。一筋縄ではいかないこの大きな問題に、経験に対する一人称的記述、脳そのものの機能の解明、計算理論による意識のモデル化など、さまざまな研究者がさまざまな方法でアプローチしています。

関わっているのは、正常な意識と、精神疾患などによって正常な状態から逸脱した意識とを比較することを通して人間の意識の基本構造を追求するプロジェクトです。私は哲学、なかでも時間論の研究者として「時間」を軸に研究を行っています。哲学のほか、神経科学、ロボティクス、数学など諸分野の研究者と議論を重ねています。

同僚との議論の風景

同僚との議論の風景

他分野の研究者と話をしていると、思いがけないものの見方にはっとさせられることがあります。「時間」に対するある哲学者の考え方を紹介していた時のこと。ロボティクスの研究者から興味深い話を聞きました。曰く、ロボットが活動に移る前の探索の動きやデータを見ると、特に主観的な時間は、常に一定の速度で流れているのではなく、場合によっては、ダマになっていたり淀んでいたりするように思われるという指摘があったのです。確かに、寝起きや入眠の瞬間など、人間の経験でも時間の流れの混乱を感じることがあると気づかされました。哲学の研究会なら、そこで出るのはテキストに基づく同意や反論。過去の哲学者が到達した領域の中での議論が一般的で、このような実際の事例の話はなかなかできません。その意味でも、ここでの研究は、私にとって非常に意義深いものだと思っています。

哲学の文献をていねいに読む訓練が、哲学の枠にとらわれない研究に役立っている

大学院では、文献をていねいに正確に読み、その内容を具体的に理解することを叩き込まれました。「正確に読む」とは、文献を語学的に正しく読むことはもちろんのこと、わかりにくい語や表現を、文脈や他のテキストを参照しながら、一人の哲学者の思想の中で矛盾のないようにネットワーク化する作業もふくまれます。自分の解釈で読み飛ばしたり、理解可能な形に要約してわかった気になったりすることなく、どんなに難しくても、逃げず、ごまかさず、考え続ける。当たり前のようで、実際はとても難しいことでした。

この訓練を通して自分の専門分野についてじっくりと理解を深められたおかげで、今、一緒に研究している他分野の研究者に対しても有用なものを提供できていると思います。また、テキストに忠実であろうとする態度は、胸襟を開いて他分野の研究を理解しようとする態度と本質的に似ているとも思います。今の自分にできる範囲だけで理解してごまかすのではなく、理解できない自分を変える努力をしたい。哲学の古典的な文献を読む訓練が、結果として哲学の外との交流、哲学の枠にとらわれない研究に役立っています。

大学院時代の写真

大学院時代の写真

立命館の研究環境は素晴らしいものでした。人文学系の院生にとって、図書館が充実しているのはとてもありがたい環境。先生方はもちろん、職員の皆さんの親切さも印象に残っています。

「時間」について、いつか物理学の研究者とも一緒に考えたい

今、他の分野の研究者と一緒に研究を進めることが単純に楽しいと感じています。将来は、より広い分野の、例えば物理学の研究者とも、私の専門分野である「時間」について一緒に考えたいという思いも強くなってきました。いずれは研究を主導する立場にもなれればと思います。

そのためにも、学問領域ごとの概念や問題意識の微妙なズレを解消できるようにしたいと考えるようになりました。例えば「習慣」という概念について、哲学と心理学では、これを扱う方法も考え方も研究の蓄積も異なっていることを研究の中で実感しています。このようなズレに注意しながらもこれを楽しみつつ、自分に何ができるかを考えていきたいと思っています。

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