修了生の声

谷端 郷さん 地理学

谷端 郷さん

後期課程 2015年修了
北海学園大学 人文学部日本文化学科 講師

学問としての研究を深めるだけでなく、
その成果を社会へ還元していきたい

地理情報システム(GIS)への興味から歴史災害研究の道へ

文学部総合プログラム(現・京都学クロスメジャー)で環境史のゼミにいた時、地理情報システム(GIS)というコンピュータを使った空間分析の手法に興味を持ち、もっと詳しく学ぼうと、先生が所属する立命館大学歴史防災都市研究所に出入りするようになったのが、歴史災害研究を始めるきっかけです。歴史資料やフィールドワークから過去の災害を復原し、実態を解明する研究です。災害とは自然現象と社会の営みが重なるところに生じるものとして興味を持っていた分野。先生のすすめもあり、出身地の神戸で戦前に起きた土石流災害である阪神大水害について、GISを活用して研究することにしました。

GISを用いた阪神大水害の被害状況の可視化

GISを用いた阪神大水害の被害状況の可視化

卒論での研究をさらに深めるために大学院に進学しました。立命館を選んだのは、GISやそれを活用した歴史災害研究で実績があったことと、「文化財を災害から守る」をコンセプトに文理融合で研究を推進する歴史都市防災研究所の存在があったからです。在学中は研究所のさまざまなプロジェクトに参加させていただきました。江戸時代の瓦版をもとに京都の火災を地図化する共同研究や、地域の方々と一緒に地域の安全安心マップを作成するワークショップなどです。これらのプロジェクトに関わることによって、同じ専修の先輩後輩だけでなく、理工学研究科など他の研究科の院生とも交流し、交友関係を広めることができました。

院生時代に学会発表で訪れたロンドン

院生時代に学会発表で訪れたロンドン

地域の防災マップづくりには大学院での経験が活かされています

過去の災害を復原し、そこから教訓を導き出すのが私の活動の軸です。大学教員となった今、これまで取り組んできた研究をさらに広げることはもちろん、災害の教訓を伝える地理教育や防災教育にも取り組んでいます。その一つが、岩手県三陸地域での調査プロジェクトです。津波関連の伝承をもつ地名が明治以降になぜ消えたのか、なぜ残っているのかを探るプロジェクトに参加しています。また、東日本大震災後、地域の祭礼がどのように行われているのか、震災前後でどのように変容したのかなどを記録し、地域における祭礼の意味を考える調査活動も行っています。

防災マップを活用した取り組みのひとこま

防災マップを活用した取り組み

さらに、大学の地域連携事業として、北海道ニセコ町などで地域の方々と防災マップづくりに取り組み、自主防災組織の活性化も支援しています。これには、大学院時代に歴史都市防災研究所のプロジェクトへ参加した経験が活きています。地域との連携の手順を知っていることもそうですが、地域の危険な場所だけでなく、魅力的な場所も併せて収集し、地図上に可視化して地域で共有するという考え方は、どの地域でも前向きに受け止めていただいています。学問として研究を深めることと、それを社会に還元してどう貢献できるかを考えること、この両方を経験させてもらえたのは、大学院時代に得られた財産だったと思います。

「地域」を軸に『歴史災害事典』を編纂し、防災・減災に役立てたい

将来的には『歴史災害事典』のようなものを編纂してみたいと考えています。これまでに出版されたものは、時代順に出来事の概要が書かれたもの。私は地理学の立場から「地域」を軸に過去の災害を整理し、今後の防災・減災に役立つ教訓をまとめられないかと考えています。まだ、構想の域を出ませんが、目標に向かって日々の研究に励んでいます。

立命館大学文学研究科には、地理学、観光学、GIS、文化情報学など最先端の学術的な知見や技術が学べる強みと、自身の研究テーマを自由に決められる風土があります。また、研究指導に熱心な先生方や先輩も多く、そういった方々と議論しながら研究をまとめていくこともできます。さらに、歴史都市防災研究所のような学内の研究機関との連携を通じて、学問の知見を地域の防災活動などに活かす実践的なプロジェクトにも参画することもできます。こうして社会的な経験が積めるのも魅力の一つだと思います。

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