立命館小学校

見えない文化を理解する

二学期の初め、今年もワールド・ウィーク(WW)を開催しました。WWは、過去には立命館アジア太平洋大学から、昨年からは立命館大学から国際学生のみなさんに来校してもらい、全ての学年で多文化交流の取り組みを行うという取り組みです。今回は、立命館大学の三つのキャンパスから、20名15カ国(韓国・中国・ベトナム・ミャンマー・インドネシア・バングラディシュ・パキスタン・インド・スリランカ・ロシア・ウクライナ・イタリア・エチオピア・ジンバブエ・アメリカ)の国際学生にWWゲストティーチャーとして協力してもらいました。

こちらは歓迎会直後の様子。お互いにあっという間に打ち解けるところ、すごいなあと思います。
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このWWでは、それぞれの発達段階に応じたかたちで「世界の多様性との出会い」を子どもたちが経験していきます。とはいえ、立命館小学校の子どもたちは、WWやその他取り組みを通じて1年生の時から毎年色々な国の先生たちと一緒に過ごす経験を積み重ねているので、そもそも「世界の多様性」に対する壁があまりありません。ホスピタリティを全開に、ゲストティーチャーに近づき、手を繋ぎ、休み時間にはグラウンドに引っ張っていって一緒に遊びます。

ここで一つ、5年生の取り組みをご紹介します。5年生では、ゲストティーチャーが日本に来てびっくりしたことについて、自分の国との対比で具体的に話してもらうという時間があります。国際学生の観点は本当におもしろくて、例えば、「日本には自動販売機がたくさんあってびっくりした」「バスの中で人々が静か」「ゴミの分別が細かい」などなど、実際に生活をしたからこそ感じることのできる、リアルな体験ばかりです。
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そして、その話の理解を深めるために、私から短いレクチャーをしています。それは、「見えない文化を理解する」というものです。私は長年異文化間教育論を大学で教えてきましたが、この「見えない文化を理解する」観点は、どの授業でもかならず最初に話す内容です。

こちらがそのスライドです。
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異文化間教育の分野では、これを「文化の氷山モデル」と呼んでいます。「文化とは氷山のようなものである」とし、「文化」概念の本質がどこにあるのかを考えるヒントを示すものです。「氷山は、水面の上に見える部分はほんの一部であり、氷山の本体は水面化の見えないところにあって、見える部分を支えている。文化も同じで、見える部分というのはほんの一部に過ぎず、その下に大きな見えない部分があって、見える部分を支えている」というのが基本的な考え方です。そして、見える部分の理解にとどまらず、見えないところに何があるのかを考えてみよう、そして、見えない部分を理解するためにどんな工夫ができるのか考えてみよう、というのが子どもたちへの問いかけとなります。

子どもたちの反応を見ていると、相手が5年生でも大学生でも、あまり違いがないんだな、ということがわかります。むしろ小学生の方が素直に「なぜ?」と考えるのが得意ですし、氷山の下を探る考え方に違和感がないのかもしれません。

そして、さっき読ませてもらったある5年生の感想文。自分の好きな文化のある習慣を残酷でいやだと思っていたけど、「見えない文化を理解する」という考え方をしたら、見えないところに意味があるに違いない、と気づいた。これが文化の違いということであって、違いを否定するのではなくて、価値観の違いを認め、どう受け入れるかを考えることが「見えない文化を理解する」ことだとわかった、と。深い洞察力に感心しました。そして、この子自身の異文化に対するリスペクトが根底にあって、それが気づきに繋がっていること、私自身学ばせてもらいました。他者に対するリスペクトは、こういう形で自分の成長につながるんですね。

一方、国際学生のみなさんも、とてもいい時間を過ごしてくださったようです。
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毎日朝からずっと授業や取り組みをこなし、休み時間も子どもたちと遊び、大忙しだったと思います。そして、日本という留学先で「初めてHomeと感じられる場所ができた」といってくれた学生がいました。そう感じられること、私も留学生という立場を経験したものとして、本当にかけがえのない経験だったのだとわかります。それぞれに一生懸命とりくんでくれたゲストティーチャーの皆さんに、心から感謝しています。また何らかのかたちで、立命館小学校に戻ってきてもらえるような機会を作りたいです。


校長 堀江未来