立命館小学校

はなむけの言葉

本日、立命館小学校では卒業式を行いました。
 
卒業証書授与では、6年生一人ひとりがしっかりと私の目を見て受け取ってくれて、その一瞬一瞬がとても愛おしいものに感じました。6年生が晴れやかな表情で卒業していく姿を見ることは、教育に携わるものとして、全てが報われる思いになる瞬間でもあります。
 
ところで、今日の校長式辞について、何名かの卒業生保護者の方から「どこかでもう一度読みたいのですが」とのリクエストをいただきました。そう言っていただけるのはありがたいことですので、子どもたちに再度私のお祝いの気持ちを伝える意味も込め、こちらで原稿の一部を公開することにします。
 
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卒業にあたって、みんなのこれからの幸せを1番に願いながら、私からはなむけの言葉を送りたいと思います。
 
この小学校6年間、学校生活においても、社会生活においても、新型コロナ禍の影響を大きく受ける時期が数年間ありました。今年度、5月には感染症の分類が変わって、学校でできることが格段に増えました。急な環境変化にも関わらず、今日卒業して行くみんなは、6年生として、できる限りのことを精一杯、頑張ってやってくれたと思います。
 
ところで、新型コロナ禍の影響を受けていた数年間は誰にとっても大変な時期でしたが、反面、いろいろと学ぶことも多い時期でもありました。そのところから、今日はみなさんにお話しをしようと思います。
 
当時、あのような非日常が続く中で、世界中を見てみると、人の心の弱い面が表に出ている様子がたくさん見えました。みんなも覚えているかもしれませんが、世の中ではいろんなデマが飛び交ったり、差別的な事件もたくさん報道されていました。人は、これからどうなるかわからない状況や、得体のしれないものに対して、不安感を抱くのが普通のことだし、その不安感のままに、感情に流されて行動してしまうことがあります。とても残念なことですが、それもまた人間の本質の一面でもあります。
 
私たちの心には、そういったネガティブな要素、例えば、恐れ、不安、妬み、焦り、ずるさ、といったものと、ポジティブな要素、例えば、温かみや親切心、思いやり、安心、信頼、といったものが共存しています。そして、きっかけによってどんな気持ちが刺激を受け、どんな行動のもとになってしまうのか、それは人によって違います。同じ出来事が起こっても、それに対して同じ感情を抱いたとしても、その感情によって後押しされて表に出てくる行動は異なります。
 
例えば、差別や偏見というものは、相手のことを自分がよく知らないことからくる恐れや不安、という気持ちの状態がまずあって、それを打ち消すためにその相手を攻撃する形で、気持ちが行動としてあらわれるものです。しかし、よくわからない相手のことや未知の状況を目の前にして、不安や脅威を感じたとき、それに対応するための振る舞いは、相手を否定し、攻撃する、ということしか選択肢はないのでしょうか。
 
そうではないことは、みなさんはすでによくわかっていると思います。もっとよい選択肢として、「その相手のことや、その取り巻く状況をよりよく知り、理解してから、どうするかを論理的に考える」という方法があります。これが、これからの世界を生きていくみんなに、今日一番伝えたいことです。
 
つまり、物事をよく知っていて、論理的な思考ができれば、感情に流されて、不本意な行動をとってしまうことも防げるということです。私は、これが知性とか理性とか教養というものの役割だと思っています。そして、こういう力によって、私たちは自分自身や周りの大切な人々を守ることができるのだと思います。
 
毎日の生活の中で、私たちは、自分とは異なる存在、自分には理解し難い存在とも出逢いながら過ごしています。先程のようなネガティブな気持ちが触発されて、行動に出てしまうようなことは、日常にも十分ありうることです。物事を多面的によく知ること、論理的な思考ができるようになること、そして、心の良い面をつかって、社会とつながっていくこと。これからの学びの中で目指してください。
 
さて、最後にもう一つお話しします。これからみなさんは、それぞれの道に進んでいきます。同じ中学に行ったとしても、同じ道を歩んでいるわけではありません。みなさんは、一人一人が異なる個性をもっていて、それぞれの魅力があります。成長していく方向もそれぞれ異なります。得意なことも苦手なことも、気持ちが赴く方向も、好きなことも嫌いなことも、うれしいことも辛いことも、それぞれ違います。考え方や価値観、感情の持ち方が全く同じ人間はいません。
 
そのために、ときには、誰かを羨ましく思うことも、相手に対して優越感を感じることもあるかもしれません。しかし、もっと大切なことは、見えない部分にあります。それはそれぞれが輝くために、誰もが、見えないところでたくさんの努力をしているということです。いつも楽しそうにみえる人も、表からは見えない心の悩みを抱えていて、それを乗り越えようと努力しています。かかえる悩みは異なるけれども、成長のための痛みは同じことです。周りの仲間の素晴らしいところを見つけたら、その裏にある努力にも気持ちを寄せてみましょう。このことをいつも心に留めておけば、自然とお互いの成長を応援しあう事ができます。そして、その事が、自分の新しい挑戦を助けることにもなります。
 
私は、みんながこれから進む先が、それぞれの個性が尊重され、誰にとっても居心地のいい場所であってほしいと願っていますし、みなさん自身が、主体的にそういう場所を作っていけるよう、それぞれに行動してほしいと思っています。
 
この立命館小学校での6年間で、みなさんは大きく成長しました。知識も、思考力も、思いやりの心も、行動力も格段に育ったみなさんの姿を、とても誇りに思います。そして、今日は、みなさんの成長を支えてくれている人、見守ってくれている大切な人たちに、しっかり感謝の気持ちを伝えてください。
 
卒業生のみなさん、そして、保護者のみなさん、立命館小学校は、これからもみなさんのホームです。これからの新しい生活が、立命館小学校でのことを忘れてしまうぐらい、刺激に満ちた、楽しいものであってほしいと思いますが、頭の片隅で、これからも立命館小学校とのつながりを大切に思っていてもらえたら嬉しいです。私たち立命館小学校の教職員は、これからも、みなさんの成長を見守り、応援していきます。
 
2024年3月16日 
校長 堀江未来