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乳幼児心理学国境を越えた課題に挑む! 海を越える乳幼児の研究

2022.04.18

「乳幼児の研究」と聞くと、赤ちゃんの成長や子育てに関するホンワカした研究をイメージする人が多いかもしれません。実は海を飛び越え、国際的な研究を行っている「乳幼児心理学」のトップランナーに、最近の子育て事情と、研究成果をお聞きしました。

今回の案内人
矢藤優子先生
  • “イクメン”と聞いて、どんな印象を持ちますか?
  • 赤ちゃんにテレビや動画を見せるのはアリ? ナシ?
  • 赤ちゃんの不思議を解き明かすことは、人間の起源を知ることです

“イクメン”にNOの声? ミレニアル世代の子育て事情

「ミレニアル世代」という言葉を知っていますか? 1980年〜1995年頃に生まれ、デジタルの台頭とともに成長してきた世代を指します。矢藤先生は、(2022年現在)20歳台後半〜40歳台前半に相当するミレニアル世代の育児に注目し、その特徴をこう分析しています。

 「“デジタルネイティブ世代”と言われるミレニアル世代は、情報収集能力に長けています。育児の不明点は、ネットで検索してスマートに解消。また、男は働き、女は家を守るといった旧式の考えは薄く、性別にかかわらず夫婦が協力して家事・育児を行うものと考えています。育児に積極的な父親をあえて“イクメン”と呼ぶことに違和感を覚える人が多いのは、育児に父親も母親も関係ない、という前提に立っているからでしょう。実際、育児をする母親を“イクママ”とは言いませんからね」(矢藤先生)

矢藤先生の専門である「乳幼児心理学」は、発達の段階に分けて人間を研究する「発達心理学」の一分野。乳幼児(0歳〜小学校就学前)と、養育者、家族、地域、文化といった周囲の環境との関わりを研究する学問です。ユニークな研究例として、乳児と親のかかわりについて、おむつ替えに注目した取り組みをご紹介しましょう。

 「花王株式会社と行った共同研究では、親子のかかわり方と乳幼児の発達に着目し、積み木遊びとおむつ替えにおける親の発話量を測定・比較。結果として、親が作業に専念して無口になりがちなおむつ替えのシーンで、積極的に声かけをする親の子どもは、社会的能力が高いことが示されました」(矢藤先生)

矢藤先生の研究は、言葉が少なくなりがちなおむつ替えの場面でも、コミュニケーションの時間として接することの重要さを示唆しています。

 「子どもと関わる中で大切なのは、ちゃんと『見ているよ』という態度を伝えること。子どもを静かにさせる手段として、テレビを見せる親がいます。その際も見せっぱなしにするのではなく、近くにいて見守るのが大事。テレビを見ての感想を話してもいい。子どもに関心をもち、応答することが子育てで大切です」(矢藤先生)

少子高齢化が叫ばれて久しい現代で、子育ては各自治体が力を入れているトピック。矢藤先生の場合、立命館大学大阪いばらきキャンパスを拠点にいばらきコホートを展開し、子育て支援のあり方について長期縦断研究を進めているほか、茨木市と共同でwithコロナ時代の子育てについて研究を実施。今後は他府県とも連携を取っていく計画です。

まだまだ未知のことが多い乳幼児の実態。研究によって、これからも新たな“常識”が世に出るでしょう。赤ちゃんに関わる仕事を考えている人や、子どもを育てたいと考えている人は要チェックです。

乳幼児を研究する=人間にとって普遍的な核を探る「乳幼児心理学」

ここからは、研究室を飛び出した、幅広い研究例を見ていきましょう。

 「企業との共同研究のほか、我々の研究室ではさまざまなコラボを行っています。近年取り組んでいるのは、『立命館大学アジア・日本研究所』での研究です。大学を飛び出し、日中韓インドネシアといったアジア諸国でインタビューや行動観察を行い、文化や環境、政策を超えて共通する乳幼児の心理や適応の仕方、育児支援のあり方について調べているんですよ」(矢藤先生)

少子高齢化、晩婚化といった、国境を超えた課題の解決にチャレンジしている矢藤先生。立命館大学屈指の研究力の高さを誇るその研究室は、民間企業や他の研究機関の研究員も出入りしており、大学の枠を超えた研究拠点として展開しています。

もちろん、学生も活躍しています。中には、矢藤先生と共同研究がしたいと、ゼミに参加する学生も。

 「私の研究活動に共鳴し、積極的に研究に励んでいる学生さんが多いですね。おむつ替えの研究も、学生さんが大いに貢献してくれました。大学院に進むと、研究テーマはさらに壮大に。院生の中には、都市部へ出稼ぎに出た親を待つ、中国農村部の“留守児童”について研究している人もいます」(矢藤先生)

「乳幼児の心理学」というと一見狭そうなテーマのようですが、その内容は実に深淵で弘大。世界的な視点を持てば、乳幼児の見方が変わるかも?

ようこそ、総合心理学・人間科学の世界へ!

乳幼児の発達に興味があるならぜひ「乳幼児心理学」の世界へ!
総合心理学部の学生はみなモチベーションが高く、活気にあふれています。卒業後は児童相談所に務めたり保育士資格を取ったりして、社会で活躍する学生も。卒業研究の面接調査で子どもたちの話に耳を傾けた経験が、コミュニケーション術として役に立っているという人もいますよ。