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応用行動分析学応用行動分析学で、「不安」や「やる気のなさ」を“動詞化”しよう!

2022.04.18

ぼんやりとした不安ややる気のなさは、誰もが感じるもの。では、不安があってもやる気がなくても、「できる」を楽しめるとしたらどうでしょうか? 応用行動分析学を通じて、そんな方法を学んでみましょう。

今回の案内人
谷晋二先生
  • 「テスト前なのにやる気が出ない」「なんとなく不安でモヤモヤする…」そんな人にこそ心理学!
  • 応用行動分析学の考え方を身につければ、イヤな勉強や作業に取り組みやすくなる!
  • 身近な話から、誰もが個性を尊重しあえる多様性社会の話まで、広く関わる考え方を身につけましょう

「不安」は悪いもの、「やる気」は出すもの それってホント?

今回のポイントとなる「応用行動分析学」は、心理学の1ジャンル。環境と行動の関係を探る「行動分析学」を、臨床的に応用したものを指します。

 「心理学では、機能的に物を見ます。今回の応用行動分析学で採用しているものの見方、考え方は、少し難しい言い方になりますが『機能的文脈的主義』。物事というのは状況や文脈によっていろいろな見え方をするものであって、決まりきった見え方はない、という考え方です」(谷先生)

人間の全ての行動は文脈によって変化するもので、アプリオリ(先天的)には決まっていない、と谷先生は言います。どういうことか、具体例を出して考えてみましょう。例えば「不安」という感情。これはとても当たり前の感情ですが、どのように対処していますか?

 「一般的な『不安』のイメージは、嫌なもの、抱えたくないもの、できるだけ取り除きたいもの……と、マイナスな印象ばかりです。それは、小さな時から『和らげるべきもの』と習って育つから。しかし、機能的に見てみると、不安はとても当たり前のものです。全ての人間が持つものだと考えれば、取り除く必要はなくなりますよね?」(谷先生)

言われてみれば、確かに! 不安なんて何一つない、という人なんて、この世に一人もいませんよね。

 「『やる気』も同様です。前提として、心のどこかに『やる気』があって、それを高めると、行動につながる……と、思っていませんか? 『やる気を持ちなさい』『やる気を出しなさい』とよく言われる人は、いったん立ち止まって、機能的に考えてみてください。実はやる気と行動は同じもので、行動したらそれがやる気だった、という見方ができるんです」(谷先生)

谷先生が言うには、大切なのは未来につながる、滋養的な特性を持つ動機付けなんだとか。
例えば試験の際、あなたはどんな気持ちで挑んでいますか? 「単位を取らないと卒業できない」「勉強しないと落第する」「就職しないと一人前と認められない」……。このような「〇〇しないために」という回避的な動機付けをするのか、「勉強することは楽しい」「新しい知識を身に付けることは面白い」「大学で好きな分野を究めたい」……と、滋養的な動機付けをするか。どちらが自分のためになるか、きっとわかるはずです。

 「もともと日本人は『他者と異なる』ことにナーバスで、不安を持ちやすい社会的構造と文化を持っています。それでも最近は、かつて差別を受けてきた障害を持つ人、同性愛者なども、ダイバーシティの一環であるという見方、文化が構築され始めています。社会全体が、他者と異なる不安を回避しようという動きから、多様性の一つとして尊重し合おうという動機付けに変わってきていると言えるでしょう」(谷先生)

何事も「動詞化」で、面白きこともなき世を面白く♪

滋養的な動機付けで機能的に物を見ることで、物事の楽しい面を捉えられるようになります。実際、谷先生の思考はとってもポジティブ。「応用行動分析学が面白くてやめられない!」という、そのモチベーションはどこから来ているのでしょうか?

 「もちろん、嫌いな仕事や、苦手な作業はありますよ(笑)。ただ、応用行動分析学の思考方法のおかげで、嫌な仕事もやりやすくなるんです。色々な物を機能的に考えることを応用して、作業や考え方自体を“動詞化”するのがコツです」(谷先生)

例えば「面白い」は形容詞ですが、これを動詞化して「面白がる」にする。テスト勉強がどうにもつまらない……と感じたら、「面白くする」にはどうしたらいいかと考える学問が、応用行動分析学なのだと言います。

同様に「やる気がない」なら「やる気を付ける」ためにどうしたらいいかと考える。「価値がない」なら「価値付ける」ための方法を検討する。今のうちに主体的に考えるスタイルを身に付けておけば、将来嫌な仕事を任された時にも、「どうやって面白くするか」と考えられるようになりますよ。

 「動機付けと動詞化ではどうにもならないほど嫌な仕事や作業があったときは、スケジューリングがおすすめです。まずその作業に必要な総時間と、自分が最低どれだけその作業に費やすことができるかを見積もりましょう。10枚のレポートを1枚1時間で書くとして、必要なのは10時間、だけど自分は30分しか集中できない、とする。であれば、一日の隙間時間に『30分で0.5枚だけ』と思って進めていくんです。『明日はこの空き時間を使おう』『調子が出てきたからあと30分』などと思えば、ゲーム感覚で楽しく進められるのではないでしょうか」(谷先生)

実際、先生はこの方法で、苦手な作業も面白がれるようになったと言います。とにかく明るい谷先生は、教鞭を執っている立命館大学の学部生にも、機能的なものの見方を学び、習慣化するよう伝えています。

 「この考え方、ものの見方ができるようになると、世の中が楽しくなります。あなたの人生に新しい選択肢が増えますよ!」(谷先生)

ようこそ、総合心理学・人間科学の世界へ!

応用行動分析学では、対人支援の研究なども行います。ぼくの場合、まだ公的な支援がない時代から、うまく話せなかったり、全然言葉が出なかったりする子どもたちの言語トレーニングをしていました。今では、多くの支援者の人たちが行動分析学を使った言葉の指導を行なっています。応用行動分析学が社会に寄与した一例です。