心理プラスな人(卒業生メッセージ)

2024年度



思い込みを捨て去り、化学の現場へ

吉田 葵 さん
心理学専攻 2020年卒業

サティス製薬 研究所 開発部

総合心理学部から化粧品メーカーに就職した吉田葵さん。同社の研究所で薬品やデータを扱い、新商品の開発に取り組んでいます。心理学から化学の現場に、イチから踏み込めたのはなぜなのか。吉田さんにお話を伺ってみましょう。

化学の現場で見つけた自分の強み

総合心理学を卒業後、サティス製薬に就職した吉田葵さん。現在は各部署の研修を終え、開発部で新製品の開発に取り組んでいます。

「職場では白衣を着て化粧品をつくっています。業務内容は主に、ベースとなる化粧品の成分を、顧客のニーズに合わせて調整したり、顧客提案前のベースとなる化粧品をつくったりすることです。ベースサンプルに加えた成分がどのように作用しているかなどを分析しながら、徐々に完成系に近づけていきます」

学生時代から、“自分を変えてくれた”化粧品業界に憧れがあったという吉田さん。入社直後は漠然と営業部を希望していましたが、開発部研修でモノづくりの楽しさに心を奪われ、化学の世界に足を踏み入れることを決意。イチから化粧品開発を学ぶ中で、化学の“常識”にギャップを受けることも多いのだとか。

「初めの頃は失敗を繰り返すことに抵抗がありました。“これでいける”と思ったのに、全然上手くいかないことも多くて。でも、化学は実験の繰り返しなので、そもそも失敗が前提なんですよね。失敗で得られたデータから、別の方法を考えることが大切です」

サンプル作りに失敗して、予定通りに進まないのは日常茶飯事。最近では失敗を見越して、一気に何パターンものサンプルを試していると、吉田さんはリラックスした様子で言います。そのように化学の常識に慣れてくると、自分ならではの強みも見えてくるそう。

「大学で専攻した認知心理学の知識が、化粧品開発に直接役立つということは中々ありません。でも、物事の背景を追求して、試行錯誤を重ねていくのは、心理学も化学も同じ。成分の新しい組み合わせを試す地道な作業の中で、総合心理学部での経験は確かに活かされているなと感じます」

偏見や弱さまで含めて自分を客観視

現在は化粧品メーカーで力強く働いている吉田さんも、在学時には就活が不安で仕方なかったと言います。ちょうど新型コロナウイルス感染症の流行拡大とも重なってしまい、友人と励まし合うことも難しい状況でした。

「心細い中で、大学のキャリアセンターにはとてもお世話になりましたね。相談には親身に対応してくれて、面接練習も手伝っていただきました。インターンシップに積極的に参加したことも、自信につながったと思います」

そうして商社やマスコミなど、多様な業種のインターンを経験するうちに、せっかくなら思い入れのある商材を扱いたいと化粧品業界に的を絞って就活。吉田さんの“下手に思い悩まず、興味のある方に飛び込んでみる”姿勢は、日々の授業を通じて培ったものだそうです。

「たとえば、人を見た目で判断して、“自分とは合わなそうだな”とちょっと遠巻きに見ることは誰にでもあると思います。でも、話してみると意外に気が合うことも多い。そこで、“話してみようかな”と行動できるようになったのは、総合心理学部で幅広く学んだからですね。専門の認知心理学だけでなく、臨床系や社会系の学問にも触れて、見識が広がりました。偏見や弱さまで含めて、自分自身をロジカルに客観視できるようになったんです」

心理学は“自律”に役立つ

自分を客観視する姿勢は、仕事にも生かされていると吉田さんは話します。客観視できていれば、失敗したことがあっても、なぜ上手くいかなかったのかを冷静に分析して次に活かすことができる。上司からも「メンタル強すぎ」と高く評価されているそうです。

「もともと思い詰めない方ではありましたが、心理学を勉強してよりポジティブになったように思います。社会に出て思うのは、心理学は“自律”に役立つ学問だということです。心の浮き沈みを理屈で捉えられるから、失敗しても早く立ち直れますし、人とのコミュニケーションでも思いやりを持てます」

吉田さんは褒められたり叱られたりした際にも、「どうしてこういう言い方をしたのだろう」と考えるそうです。ただ言葉を受け止めるだけでなく、その人の心理や背景まで考慮して、意図を探る。認知心理学を通じて身につけた探究心が、吉田さんの“学び直し”を陰から支えています。

化粧品開発のプロを目指して

今後の目標は、まずは一つの化粧品のプロになることだと吉田さんは言います。開発部の中には、「この技術はこの人、この製法はこの人」というようにそれぞれのスペシャリストがいるのだとか。

「サティス製薬には色々な分野の専門家がいますが、それでもまだ化粧品開発に関するすべてが網羅されているわけではありません。その空席に入り込んで、たとえば“化粧水のことなら吉田に聞いて”と言われるような存在になりたいです」


そのためには、まだまだ学ぶことが山積みだと吉田さんは笑います。気負いすぎず、課題を前向きに捉える姿からは、モノづくりを心から楽しんでいる様子が窺えました。心理学を経て、化学の世界で“天職”を見つけられたのは、思い込みを捨て去ったからこそ。

「心理学は文理横断とも言われており、すごく裾野が広いんです。大学時代には、心理の動きを追うために人間の瞳の構造から学んだこともあります。“こういうのもありなんだ”と考えさせられる懐の深さが、今の私を形作っていると思います」

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