MATSUMOTO Takuma
子どもと家族への心理支援を専門とし、乳児から青年まで、子どもの言葉にならない声をどのように聴いていくかを研究しています。心理療法の中でも精神分析に関心をもつのは、言葉にならない心への探究を長く積み重ねてきた方法だからです。
私の研究では、既存のスタンダードを構築するというよりも、そこからこぼれ落ちてしまうものに目を向け、スタンダードを拡張する知見を探しています。たとえば、私の研究の1つに、自閉スペクトラム症の受身性があります。周囲に合わせて適応的に見え、軽視されがちでしたが、本人と家族が実は多大なる苦悩を抱えていることを、心理療法やインタビューを通して明らかにしてきました。見過ごされがちな心のありようを発見し、記述し、社会に伝えていくことが私の研究活動の核です。近年は、保育や社会的養護の現場にも関心があり、職員への支援とともに、現場や組織文化を捉える研究にも取り組んでいます。
関東から大阪の大学に進学したため、まるで海外留学をしたかのように、言葉や文化の違いに驚く毎日でした。大学から始めたスキューバダイビングでは、普段見ている海面の下に広がる別世界の神秘に魅了され、休みのたびに海へ出かけていました(無意識への関心はここで培われたかもしれません)。その費用を稼ぐため、居酒屋やカフェ、オムライス店などでアルバイトに励む日々。バイトの後、友人たちとお酒を飲みながら夜遅くまで語り合うのも楽しみでした。眠い目をこすりながら大学へ通っていましたが、振り返ると、授業や図書館で過ごした時間も印象に残っており、知らないことを学ぶ魅力を教えてもらっていたのでしょう。自分がこれまで接してきた人や自分自身について、学術的な観点から捉え直すことの面白さを知りました。同時に児童虐待などの世界を知っていったことも印象に残っています。
大学入学当初からカウンセラーを志していましたが、子どもを対象にするとは考えていませんでした。転機となったのは、大学時代に週1回ボランティアで通っていた小学校で、たまたま勤務日が重なっていたスクールカウンセラーの先生とお話しする機会に恵まれたことです。大学院進学後も、さまざまなアルバイトを通して子どもと関わる仕事を経験しました。「やってみよう」と思ったことに一つひとつ取り組むうちに、現在の専門分野へと導かれていったように思います。さらに、乳児観察(infant observation)という方法との出会いや、心理臨床の中で「もっと早く支援してあげたかった」と感じた経験から、乳幼児期への関心が深まりました。子どもの可愛らしさと、ダイナミックに変化していく可能性。その両方が、乳幼児期の魅力だと感じています。
私は、心理臨床の仕事がとても好きです。そして、そこに関心を持ってくれる人も好きです。この領域には、まだまだ開けられていない箱がたくさんあります。自分が知らないことに出会うと、少しチクッとするような痛みを感じることもあります。でも、それは同時に、新しいことを知り、世界を広げていくチャンスでもあります。人の心は、知れば知るほど奥深く、簡単には答えが見つからないからこそ面白い。知らないことを恐れず、一緒に人の心の奥へ潜っていきましょう。