ワークショップ

立命館大学稲盛経営哲学研究センターリーディング研究プロジェクト

稲盛経営哲学から考察する利他の
リーダーシップ国際共同研究プロジェクト

第1回リサーチワークショップ(国内)開催

本研究センターでは、2018年9月21日(金)から23日(日)にかけて、
国際共同研究プロジェクトの国内外メンバー全員参加による
第1回研究ワークショップを開催しました。

 2018年4月から正式に研究活動を開始した「稲盛経営哲学から考察する利他のリーダーシップ国際共同研究」は、一橋大学の野中郁次郎名誉教授を含む8名のメンバーが最新の哲学理論と組織経営理論の二つの領域から利他経営の学術的探求から得た新たな知見の学会報告と論文・書籍出版を通して稲盛経営哲学の一般化と普遍化を目指す研究プロジェクトです。利他のリーダーシップは企業組織の経営に限られることなく、世界各地で普遍的に求められる共通善というメンバー全員の共感と認識をもとにチームが結成されています。

 本ワークショップではメンバーの全員参加によって、初日は名誉会長へのご挨拶を筆頭に相互理解を深めることからはじめ、2日目は各自の研究構想と提案を報告し合うことで研究活動のベクトルを合わせること、そして最終日には今後の研究発信活動の具体的内容を共有し、より緊密で有機的な研究協力活動を実践することを目的と定めて2泊3日の研究会を実施しました。

 初日の9月21日には、京セラ本社でプロジェクトメンバー全員が揃って稲盛名誉会長に自己紹介とご挨拶をし、名誉会長からのメンバー全員への感謝と激励のお言葉と共に、記念撮影が行われたあと、稲盛名誉会長の講話が収録されたDVDコレクションがプレゼントとして全員に直接渡されました。引き続きセラミック館と美術館の見学、そして稲盛ライブラリー見学が行われ、京セラの進化と稲盛哲学を肌で感じ、理解を全員で共に深める場がつくられ、稲盛ライブラリーのセミナールームでは John Wilson教授とAnna Tilba准教授による英国での研究活動報告も行われました。尚、夕食懇親会では、組織理論の野中教授と、プロセス哲学のチア(Robert Chia)教授を囲んで、プロジェクトメンバー全員と関係者が一丸となって議論し合うコンパを行いました。

 ワークショップ2日目の22日は、最初に野中教授による「Management for Fostering Wisdom」(賢慮を促す経営)の研究報告が行われ、稲盛経営哲学の根幹に宿る良き目標・善を追求する経営概念の重要性が力説され、相互主観性を活性化する場づくりとしてコンパの学術的解釈が続き、社員ひとりひとりがリーダシップを発揮する全員経営体制の典型としてアメーバ経営の卓越性が議論されました。さらにJALの復活事例も分析知識創造理論を以って解説され、フィロソフィは京セラという特定組織内のみにて生かされるものではなく組織経営における普遍性を持っている本質について今後の現象学領域を筆頭とする学術研究の必要性を野中教授は力説しました。

 引き続くセッションでは、プロセス哲学研究において世界的碩学として知られるRobert Chia教授により、「すでに存在し、固定されているモノや真理に注目する西洋哲学」とは異なる視点として「Becoming、すなわち個人と集団の不断な努力と利他性によって誰でもものの本質や真理を悟る立派な人格体になり得る」という動態性に注目するプロセス哲学の視座から稲盛経営哲学について学術分析の高い可能性が紹介されました。確定された事実や結果を重視する西洋の哲学とは対照的に、物事の成り行き、すなわち付き合う同僚や置かれた環境との関係展開の中から徐々に浮き彫りになる本質を把握する哲学的特性がインドや中国に根付くことを議論したファイトヘッド(Alfred North Whitehead, Process and Reality, 1929)のプロセス哲学の基本的視座から、常に謙虚な姿勢で毎日の行いの中で自発的に向上を目指し、利他性を以って周りと共に前進を不断に求める稲盛経営哲学の至るところに宿るBecomingの属性が解説されました。

 2日目の第3セッションは午後から再開され、加瀬教授と崔教授の共同発表が行われ、稲盛名誉会長の賢慮・フロネシス(Phronesis)の哲学的根源を西郷隆盛の遺訓集である南洲翁遺訓に求め、敬天愛人思想が賢慮のリーダーシップの実践と如何に有機的関連性を保持しているかについて今後の学術分析の方向性について議論を進めました。さらにその研究方法論として、名誉会長の賢慮の経営実践の歴史を様々なケース事例の発掘以って明らかにするリサーチケースの必要性が力説されました。
次の第4セッションでは、サダビー教授と崔教授による野中教授の知識想像理論を筆頭としての組織論・制度理論の視座から共同発表が行われ、稲盛経営哲学の奥深さの由縁は、名誉会長の複数の知識類型の様々な組み合わせによる経営における本質の明瞭化出来る能力、そしてそれを必要に応じて場ごとに最適な方法で周りに伝播・実践する能力に長けていることと議論されました。とくに、名誉会長のスピーチには過去の社内外のエピソード、ケースを単純な過去や歴史として留めることなく、ときには客観的史実として、ときには解釈を加えての本質理解のテーマとして、さらには聞き手のビジョンとひらめきを促すコンテンツとして幅広く活用されている事実とその学術分析の重要性が喚起されました。

 そして最後の第5セッションでは、ワドワーニ教授と崔教授による共同研究発表が紹介され、過去や現在の所謂「常識」または「当たり前」と認識されている知識体系にこころを縛ることなく、常に創造的な働き方を不断に目指し、また実践を促すところにフィロソフィとアメーバ経営の本質があることに注目し、企業家精神の歴史と理論を以って、稲盛経営哲学が今後どのように学術領域、とくにアントレプレナーシップの理論化と歴史研究において極めて大きいポテンシャルを持っているかについて議論が行われました。そこで京セラの技術進化と商品開発と事業展開の歴史詳細を丹念に辿る分析から、名誉会長と京セラの社員全員による創造的働き方の「脈絡」をつかみ、それをアントレプレヌールストリーム(Entrepreneurial Stream)として概念化する研究ビジョンを明示しました。

 ワークショップの最終日の23日には、前日に行われた稲盛経営哲学研究のグローバル学界における発信について議論が行われ、プロジェクトメンバーがすでに築いてきた多様な出版経験と学会報告・学術誌投稿と出版などの意見を共有する場となりました。稲盛経営哲学の理論化を目指す英文学術書に限られることなく、国内経営者向けの和文版や、世界各地の経営大学院で教材として活用可能なケース、そして英米圏の学術誌への投稿における研究メンバーの協力体制、さらには、次回のリサーチワークショップの企画など、研究成果をいかに見える化して行くかについて具体的な案を共有し、午前中のみの2時間ほどのセッションを終え今回のワークショップを締めくくりました。

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