研究プロジェクト

青山 敦

2018年度以降の研究計画について

稲盛経営哲学研究センター
センター長

青山 敦

京セラ稲盛和夫名誉会長の力添えを戴き、立命館大学稲盛経営哲学研究センターは、稲盛経営哲学の普遍化・一般化のために2015年に発足いたしました。

しかしながら、世界情勢や社会・経済の状況は、立命館大学稲盛経営哲学研究センターが発足した2015年と比較しても悪化しています。各国には自国第一主義が蔓延し、他国のことを顧みず、そのために紛争が頻発しており、地球温暖化や貧困問題など人類全体が協調しなければならない問題の解決にも十分に取り組めていません。

私たちは、人類社会のさらなる混乱を防ぎたいとの思いから、稲盛経営哲学を経済・社会の基盤とすべく、教育と研究の両面から普遍化・一般化のためのプロジェクトを進めてきました。しかしながら、その過程で、「利他」を社会の基盤にすることに非常な困難があることもわかってまいりました。

1つ目の困難は、「人間の欲望の強さ」です。たしかに人類全体が利他の心を持てば多くの問題が解決するということは理解できますが、一般的道徳としての利他の大切さを日々の行動に結び付けるのは非常な困難を伴うことがわかってきました。歴史的にみると、人類は「天」や「神」による規範が行き過ぎた欲望を抑制する働きを担ってきました。しかし、多くの人がそのような超自然的なものを信じなくなることによって、際限のない欲望が解き放たれてしまいました。また、人間の理性に訴えかけても、多くの人は理屈として利他の大切さは理解したとしても、行動としては将来のリスクを考えて欲望を追求してしまいます。立命館大学稲盛経営哲学研究センターでは、今年度を含め4年間の計画で「人の資本主義プロジェクト」において、欲望と資本主義経済システムの関係性を解明しようとしております。その上で、「人間を律する規範の復活」、「人間の洞察力の拡大」だけでは不十分であるとの認識に基づき「欲望の抑制を組み込んだ経済システム(利己の追求が利己にもつながらない仕組み)」を組み合わせることで、「利他」、「足るを知る」に基づく新しい経済システムの提案・実現を企図しております。

2つ目の困難は、稲盛経営哲学を企業経営の中心と位置づけ、稲盛経営哲学の真意を経営の実践に反映し続けることの困難さです。立命館稲盛経営哲学研究センターでは、「利他の経営・リーダーシップの本質的探究プロジェクト」、「組織における理念/心/文化/パフォーマンスの関係とその心理学的脳科学的メカニズム研究プロジェクト」によって、稲盛経営哲学に基づく経営の正しさを解明しようとしています。その上で、稲盛経営哲学の企業経営への効果を明確に示す研究につなげたいと考えております。本分野の研究については今後研究テーマの公募を行っていく予定です。

3つ目の困難は、価値観の違いです。稲盛経営哲学は日本の伝統的道徳観に根差したところが大きいため、共通した価値観を持たない人たち(若い世代の日本人、外国人)に、稲盛経営哲学に基づく経営を伝えるには、その正しさやなぜ経営に利他の心が必要かをより明確に説明するための理論化が必要となります。稲盛経営哲学研究センターは2017年度後半、一橋大学の野中郁次郎教授を統括リーダーとして設定し、経営における「利他の精神」の重要性と、稲盛経営哲学の本質を探求する国際共同研究プロジェクトを構想・企画しました。2018年4月より本格的な研究活動を日本、英国、米国、カナダ、スペイン各地で、組織経営の視点から利他の経営・リーダーシップの本質探求を行い海外における名誉会長の稲盛経営哲学の理解を目指す研究を進めております。組織経営は学術的には経営学の領域に属しますが、従来の英米主導の経営学は、効率性を徹底して追求する経営技法の高度化に焦点を当て続けてきました。このトレンドは20世紀の経営学では当然のものとして受容されてきましたが、21世紀に入ってからは、経営の基盤となるべき「こころ」を等閑視してきたことへの懸念が世界各地で共通認識となりつつあります。その背景には、グローバル経済体制の中で不可避な市場競争の熾烈化による企業組織の疲弊があります。この共通認識を明確にすると共に、利他性に基づく経営実践の重要性を喚起させ、事例の実証研究から理論化を進めようとするのが本プロジェクトの趣旨です。利他の精神を持つ賢慮のリーダーが世界のビジネスで求められるようになっているという事実を直視した学術研究です。第1回研究ワークショップを1年目の中間時点となる2018年9月21日~23日に、国内と欧米各地から全員集まり、日本で開催することになりました。

今後とも稲盛経営哲学研究センターの研究活動にご指導ご鞭撻ご支援をたまわりましたら幸いです。

2018年度研究活動計画

中島 隆博

「人の資本主義」研究プロジェクト

プロジェクトリーダー:中島 隆博

東京大学東洋文化研究所教授、立命館大学OIC総合研究機構客員教授

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崔 裕眞

国際共同研究プロジェクト「利他のリーダーシップ」

プロジェクトリーダー:崔 裕眞

立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科教授

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山浦 一保

稲盛経営哲学は何をもたらしたのか

プロジェクトリーダー:山浦 一保

立命館大学スポーツ健康科学部教授

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金井 文宏

JAL再生を先導した哲学・教育プラットフォーム:
JAL社員の意識・行動改革を支えた教育基盤

プロジェクトリーダー:金井 文宏

立命館大学OIC総合研究機構客員教授

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サトウタツヤ

中小企業における稲盛経営哲学の浸透プロセス:
経営者を中心とするライフヒストリー収集を中心に

プロジェクトリーダー:サトウタツヤ

立命館大学総合心理学部教授

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依田 祐一

稲盛経営フィロソフィに基づく企業変革マネジメントの有効性に係る研究

プロジェクトリーダー:依田 祐一

立命館大学経営学部 准教授

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竇 少杰

アメーバ経営と経営フィロソフィの実践における日中比較研究

プロジェクトリーダー:竇 少杰

立命館大学経営学部助教

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山岸 典子

「足るを知る」(感謝の気持ち)から生じる正の連鎖の心理・脳科学的解明

プロジェクトリーダー:山岸 典子

情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター主任研究員

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山中 司

利他の精神に基づく効果的な短期留学メソッドの確立とその妥当性の検証:本学国際部主幹の全学留学プログラム「グローバル・フィールドワーク・プロジェクト」をプロトタイプとして

プロジェクトリーダー:山中 司

立命館大学生命科学部教授

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