薬学部 薬学科 准教授

河野 貴子

京都薬科大学を卒業後、奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科博士前期・後期課程を修了。細胞機能の制御分子メカニズムについて研究する。2004年、名古屋大学大学院医学研究科21世紀 COE研究員となった後、奈良先端科学技術大学院大学、奈良女子大学などで研究に従事。2010年に立命館大学総合理工学院、薬学部の助教となり、2015年より現職。

「なぜ細胞は動くのか」好奇心が研究の原動力

#06

細胞が動く様を見た感動が原点

「細胞は生きている!」。初めて細胞が動く様子の動画を見た時の胸が震えるような感動が、研究者としての私の原点です。
「細胞生物学の研究者になろう」と心に決めたのは、大学3回生の時。小学生の時にマリー・キュリーの伝記を読んで科学者に憧れを抱いていたものの、正直に言って植物の成長を観察するような理科の生物の授業はあまり好きではありませんでした。それが一変したのは、中学生になってから。利根川進先生がノーベル賞を受賞されたことから、生命の仕組みを分子レベルで解き明かす分子生物学という学問があることを知り、初めて「生物学っておもしろそう」と興味がわきました。
とはいえ大学3回生になっても具体的にどんな研究をしたいのか、まだ決めかねていました。興味を持った大学の研究者の先生に片っ端から連絡し、研究室を訪ねたり、お話を伺う中で出会ったのが、今日まで恩師と仰ぐことになる貝淵弘三先生です。当時奈良先端科学技術大学院大学で教鞭を取っておられた先生のもとで培養細胞が動くライブ映像を見たことが、研究者としての道を決定づけることに。「なぜ細胞は動くのか。メカニズムを知りたい」。その時に抱いた好奇心が、今も研究の原動力になっています。
もう一人、研究者になる上での道しるべとなってくださったのが、現・立命館大学の上席研究員である川嵜敏祐先生です。「次に選ぶ研究室が研究者としてのあなたの人生を決めることになる。だから本当に研究したい専門分野を真剣に考えなさい」とアドバイスしてくださったおかげで、大学院から一貫して同じ関心を追い続けることができました。

結婚・出産を経て理論研究も導入

まるで意思を持っているかのように動いたり、形を変えたり、分裂したりするのが細胞の不思議なところ。こうした細胞機能を実現するために細胞内ではたくさんの分子が絶妙なタイミング、適切な場所でうまくはたらくよう制御されています。脳のような中枢機能を持たない単細胞にどうしてそんな統合的で調和した制御が可能なのか、はっきりとはわかっていません。私はさまざまな細胞機能の制御原理を調べることで、細胞内に調和したリズムやパターンが生まれるメカニズムを解明しようとしています。
修士・博士課程を通じて実験による研究が中心でしたが、結婚・出産を経て長時間研究室に籠り切りで実験に没頭することが難しくなったのを機に、思い切って取り入れたのが理論研究です。まだまだ勉強中ですが、数理生物学の理論を導入し、コンピュータシミュレーションなどによって細胞内の分子が空間的にどのようなパターンで活性するかを予測し、それを実験によって実証しています。理論と実験の両方を組み合わせて、細胞機能の制御原理を明らかにしたいと思い研究を続けています。ライフイベントがチャンスのきっかけになることもあります。どんなことにもチャンスがあるかもしれないと考えることが、研究者としてのキャリアを続けていく上では大切なのかなと思っています。

「生命」の謎を解き明かしたい

いつも心に留めているのが、恩師である貝淵先生にいただいた「良い研究をしなさい」という言葉です。先生のおっしゃる「良い研究」とは、「教科書に載るような研究」、すなわちこれまで誰も知らなかったことを解明したり、生物に対する認識を変えるような事実を発見することだと思っています。細胞のはたらきのメカニズムがわかれば、その破綻の結果である病気の予防法や治療法を見出すことも可能になります。お医者さんではないので、直接患者さんの病気を治すことはできないけれど、基礎研究の成果が疾患の治療や予防に応用されて役立てば嬉しい。何より「生命とは何か」という人類がいまだ解明できない大きな問いの答えに一歩でも近づきたいと思い、研究しています。
研究者としてはまだまだ「若手」と思っています。今でも大きな夢を描き、追いかけられるのが楽しいですね。もっと若い皆さんには無限の可能性が広がっています。かつて多くの先生方が情熱を持って導いてくださったように、私も自分の夢を追いつつ、若い後輩たちの助けになれることがあればと思っています。