理工学部 機械工学科 准教授 (インタビュー当時)

安藤 妙子

1996年、名古屋大学工学部卒業。2001年、名古屋大学大学院工学研究科マイクロシステム工学専攻で博士課程を修了。MEMS研究に従事する。同年、日本学術振興会特別研究員となるとともに、名古屋大学大学院工学研究科助手に就任。さらに助教、講師を経て、2009年より立命館大学理工学部准教授。

マイクロスケールの世界で最先端を走る

#07

最先端の研究に触れて進学を決意

研究者に漠然とした憧れを持ったのは、中学生の頃。高校時代は理系科目より文系科目の方が得意で、どちらを選ぶか悩みました。結局理系コースに進んだのも、「文系科目は得意だから、嫌になったらいつでも文系に変わればいい」という軽い気持ちからでした。
そのまま大学は工学部航空学科に進学。4回生で研究室に配属された時、博士課程で研究する先輩を見て、「私もいずれは博士号を取りたい」と夢を膨らませたものの、当初は「修士課程を終えたらまずは就職しよう」「博士号に挑戦するのはずっと後でいい」と考えていました。ところが修士課程で、MEMS(MicroElectro Mechanical Systems)と呼ばれるマイクロマシンの研究を始めたことで、思い描いた進路を大きく変えることになったのです。
1mmの1000分の1、マイクロメートルサイズの超小型機械システムであるMEMSは、いまやスマートフォンなどの小型の電子機器に欠かせないものとなっています。当時世界が技術革新にしのぎを削っていた最先端の分野に触れた私は、すっかり引き込まれてしまいました。
決定打になったのは、修士課程2回生の時。指導教授についてアメリカ・シカゴで行われた国際学会“Transducers”に出席したことでした。MEMS関係では世界最大規模の学会で、世界中の研究者が一堂に会し、MEMSが使われているセンサーやアクチュエータについて最新の研究成果を発表します。最先端の研究を間近で見て、気鋭の研究者たちの話を聞いてワクワクしました。「いつか私もこうした人たちと肩を並べて研究したい」。そんな思いが高まり、帰国後すぐに両親に「博士課程に進学したい」とお願いしたことを覚えています。

MEMSに使われる材料の特性を研究

研究テーマは、MEMSに使われる材料の機械的な特性を評価すること。極小でしかも電気的に駆動させるのに適した素材を検討するとともに、どのくらいの力を加えると壊れるか、あるいはどのように壊れるかを検証し、MEMSの技術開発に役立つデータを提供しています。
現在は、MEMSの材料として多く使われている単結晶シリコンについてさまざまな強度試験を行っています。通常目に見えるサイズのシリコンは少しの刺激で割れてしまう脆いものですが、マイクロスケールになると非常に高い強度を示します。しかしマイクロスケールの物質を測定するのは、口で言うほど簡単ではありません。最初は単結晶シリコンの片方を引っ張り、電子顕微鏡の超高倍率画面で像を見ながらどのくらいの負荷まで耐えられるか検討しようとしましたが、うまくいきませんでした。片方の端をわずかに引っ張るだけで観察しているところが電子顕微鏡の視界から外れてしまい、測定できないのです。そこでシリコンの両側を引っ張って、左右均等に負荷をかける構造を独自に作り、強度の検証に成功しました。
同じ物質でも極小サイズになることで、強度や粘性、温度などの特性が大きく変わるのが、研究していておもしろいところです。誰にも知られていなかった新しい現象を発見した時は、それまでの苦労が吹き飛びますね。

好きだから苦労も乗り越えられる

研究は思い通りに進まないことばかりです。そもそも測定する方法がわからなかったりしますし、時間をかけてやっとのことで測定したものの、期待した結果を得られず、それまでのすべてが徒労に終わることもあります。そうした試行錯誤の過程が長い分だけ、結果が出た時の喜びは大きいですね。
だからこそ研究者を目指す皆さんには、「好き」という気持ちを大切にしてほしい。「研究が好き」「新しいことを解明するのが喜び」と思えるからこそ地道で長いプロセスを乗り越えられるのです。結果を恐れず、それぞれに自分の好きな道を目指してほしいと願っています。