経営学部 教授

金森 絵里

1996年、京都大学経済学部を卒業後、京都大学大学院経済学研究科で修士および博士課程を経て、2000年、立命館大学経営学部に着任。在任中の2009年、イギリスのカーディフ大学に留学。2014年に経営学部教授に就任。

「なぜ?」に突き動かされ、夢中で研究してきた

#27

なぜ自然破壊が起きるのか答えを探して研究の道へ

「なぜ、自然破壊が起きるのだろう」。そんな疑問を抱いたことが、研究者としての今につながる出発点でした。
生まれたのは、美しい自然に恵まれた場所。家の周りには田んぼの緑が広がり、夏には近くの川に蛍が飛ぶような田舎で育ちました。地域の小中学校が環境教育に熱心だったこともあり、いつしか自然環境保全に関心を持つようになりました。当時主流だったのが、自然破壊の元凶は利益だけを追求する企業であるという論調です。「なぜ企業は、自然を破壊してまで利益を追求するのか」。その答えを見つけ、自然を守ることに役立ちたいと思い、経済学部に進学しました。
しかし大学の4年間では答えを見つけることはできず、もう少し勉強しようと大学院へ。企業の活動を理解するにはまず会計を知る必要があると思い、会計学を学び始めました。会計学は奥が深く、知識修得で瞬く間に2年が過ぎました。修士課程を終えても依然として謎は解けない。疑問を解き明かしたい一心で博士課程に進みました。

大震災と原発事故を契機に立ち返った初心

会計学の知見をさらに深めるチャンスを得たのが2004年、立命館大学で教鞭を取っていた時です。学外研究制度を利用し、会計史の研究で世界的に有名なイギリスのカーディフ大学に留学しました。当時産まれたばかりの子どもを連れての渡英でしたが、迷いはありませんでした。
一緒にイギリスに渡った夫と母親の助けを借り、子育てをしながら大学に通う日々。現実は想像していた以上に大変でした。けれど子どもがいたおかげで地域の方々との関わりが増え、大学以外にも世界が広がるなど、良いこともたくさんありました。
一方、生活以上に苦戦したのが学業です。まずぶつかったのは言葉の壁。最初は講義を満足に聞き取れず、自分の意見も思うように伝えられず、途方に暮れました。けれどそれを乗り越えた後は、多くのことを学びました。特に歴史的・哲学的な側面から会計学を捉え直せたことは、大きな収穫です。5年をかけてPh.D(博士号)を取得しました。
最大の転機は2011年、東日本大震災とその後の原子力発電所の事故です。企業活動が恐ろしい自然破壊をもたらす現実を目にして、「自然を守りたい」と研究者を志した時の思いが再び湧き上がってきました。以来現在まで原発事業の会計について研究しています。
会計学の視点で自然破壊を論じるのが難しいのは、その影響を正確に計算できないことにあります。原発事故によってどれほど自然が破壊され、その回復に膨大な年月がかかるとしても、その確かなコストを見積ることはできません。「会計によって企業の行動を説明できれば、自然を破壊する行動を抑えられるのではないか」と考えてきたものの、限界にぶつかり、打ちのめされる思いでした。しかし「会計に限界がある」と訴えられるのも、専門家だからこそです。そう考え、過去の会計担当者たちが経済活動をどのように数値化しようとしてきたのかを明らかにし、今後再び原発事故を起こさないためには何が必要なのか、会計学の観点から探り続けています。

「知りたい」という気持ちが研究を続ける力になる

原発の会計というテーマを定めてからは、居ても立ってもいられず、無我夢中で研究に打ち込みました。夫と協力し、4人の子どもを育てながら論文執筆はもちろん、土日に行われる研究会や海外の学会にも積極的に参加。立命館大学の協力的な雰囲気にも助けられました。例えば子どもを保育園に迎えに行くため、夕方の会議を途中で抜けなければならない時も、快く送り出してもらいました。そうした多くのサポートがあって今があります。
振り返ると、これまでずっと心の内の「なぜ?」に突き動かされて前に進んできました。研究者を目指す皆さんにも、「これについて知りたい」「研究したい」という強い気持ちを持ってほしい。それがどんな時も研究を続ける力になるはずです。
私自身の研究者としての道もまだ途上。これからは研究で得た知見をより広く社会に発信することにも力を入れるつもりです。