文学部 准教授

岡本 広毅

2007年、立教大学を卒業後、イギリスへ。2008年11月、イギリス・リーズ大学英語英文学研究科修士課程を修了。文化学院、明治大学などで非常勤講師をしながら、2015年9月、立教大学大学院文学研究科博士課程を修了。2016年4月、立命館大学文学部准教授に就任。

大学で出会った研究の世界 今も毎日、知的興奮を感じ続けている。

#38

高校時代、豪州での出会いが
英語に関心を持った原点

英語に関わる道へ進む原点は、高校2年生の夏休み、約2週間、オーストラリアでホームステイを経験したことでした。そこですばらしいホストファミリーと出会い、帰国後も交流が継続。彼らと話せるようになりたい一心で、英語を勉強するようになりました。
最初は単純に言語としての英語に関心を持っていましたが、大学で視界が大きく開けるような出会いがありました。それが英語の歴史の授業です。
いまや「世界共通言語」といわれる英語ですが、約1500年前は、ヨーロッパ辺境に住む限られた民族が使うマイノリティーの言語にすぎませんでした。それがここ200年程の間に、イギリスやアメリカといった英語を使う国々の躍進に伴って、英語や英語圏文化が世界中に広がっていきました。英語が世界に普及した背景には、経済力や政治力、軍事力といった強大な国の力があったのです。授業を通じて、そうした英語という言語文化が経てきた光と影に興味をそそられました。
それ以上に英語史の授業に熱中した理由は、とにかく先生の講義が面白かったからです。それまで知らなかった英語の新たな側面を語る先生の話が楽しくて、授業の後に質問に行ったり、仲間と有志で勉強したりするようになりました。その熱意が買われ、やがて先生に連れられて、学会や、海外の研究者が集まるセミナー・研究会に参加するように。そこで「こういう世界があるのか」と知り、いつしか研究の道を目指すようになりました。

進路が見えず暗中模索
恩師の励ましに支えられた

英語の歴史を入口に、英語や英語圏文化のルーツに関心を持ち、さらに学びを深めるべく、大学院に進学しました。以来、中世ブリテン島の騎士道ロマンスを代表する「アーサー王物語」などに焦点を当て、それらが後のイギリスの文化や歴史に与えた影響について研究しています。
修士課程・博士課程時代は、がむしゃらに研究に打ち込んでいたものの、どうすれば研究者になれるのかわからず、暗中模索の数年間が続きました。先を見通せず、不安や焦りを感じたこともあります。そうした日々を乗り越えられたのは、指導教授の存在があったからです。いつも楽観的に「岡本君、何とかなるよ」と、励まし続けてくださったおかげで、挫けることなく研究に集中することができました。
少しずつ学会誌に論文が掲載されるようになったのは、博士課程も後半にさしかかってからです。博士論文を書き上げた年、指導教授の勧めで立命館大学に応募。採用が決まった時は、私以上に喜んでくれました。

1日のスケジュール(取材時)

ライフライン・チャート

  • A

    16歳(高校生)
    サッカー部で日々の練習に打ち込む。オーストラリアでの短期ホームステイから帰国した直後の試合で骨折。練習ができず悔しい日々を過ごすも、異国での素晴らしい経験とともに英語文化に目を向ける時間となった。

  • B

    30歳(博士課程)
    友人とバリ島を訪れホストファミリーとの再会を果たす。また、宿泊施設の部屋に幸運をもたらすというヘビが出現。両経験は博士論文の完成と就職への弾みとなる。

  • C

    38歳(准教授)
    娘の誕生をきっかけにこれまで視界に入っていなかった様々なことが見えるように。と同時に仕事への意識が高まる。

中世の伝承・文学とポップ・カルチャー
教育を通じて研究射程が広がった

立命館大学に赴任後は、研究に加えて、講義やゼミなど学生を指導することも重要な仕事の一つになりました。
研究対象である中世の伝承や文学は、現代のファンタジー文学の他、マンガやアニメ、ゲームなどのポップ・カルチャーに大きな影響を与えています。こうした学生も関心を持ちやすい要素と自分自身の研究関心を結びつけて授業を行うことで、教育と研究を分断することなく、楽しみながら両立できています。最近では、中世ヨーロッパに伝わる古い物語が、現代のコンピュータゲームやマンガにどのように受け継がれているのか、その受容と変容のあり方を研究するなど、教育を通じて私自身の研究の射程も広がっています。
何よりやりがいを感じるのは、指導した学生が、研究や学びの楽しさを実感してくれることです。学生にはいつも「自分が本当に関心のあることを追求し、熱のこもった卒業論文を仕上げなさい」と指導しています。学生が研究に目覚め、「覚醒」する瞬間に立ち会えるのは、指導者として大きな喜びです。
現在は結婚し、子育てに割く時間も増えている他、大学でも主任などの役職を務めることが増え、研究だけに時間と情熱のすべてを注げた頃と生活は変わりました。それでも毎日、文献を読んだり、関連資料を見つけるたびに、胸が躍るような知的興奮が沸き上がるのを感じます。もし研究したいことがあるなら、どんな環境にあっても追求し続けてほしい。その先にこそ道は開けると思います。