2012年度開講の「パブリックアクセス論」(金山勉教授担当)
のゲストレクチャラーとして東京放送・TBSテレビの岩城浩幸
主席解説委員が招聘され、「"停波"の危機で見えたこと―
東日本大震災報道を通じて―」と題した講義が行われました。
<岩城浩幸 主席解説委員>
TBSテレビは、全国の民間系列局が協力して世の中の出来事を
伝える「ニュース協定」をもとに構成されたJNN(ジャパン・
ニュース・ネットワーク)の中心であり、東日本大震災の発生
から今日までの状況をもっとも俯瞰的にみることができる存在
であり、また将来に備えた緊急・災害時報道のあるべき姿を
日々考えています。
今年度の「パブリックアクセス論」では、「東日本大震災発生
後、地域や人々に密接に関係する情報がどれだけきめ細かく
伝えられたのか」、という情報の送り手としてのメディアに
向けられた課題を折に触れて取り上げてきました。
市民による地域密着の情報発信こそ、ポスト3・11の現代
社会において重要であり、この役割は、「多くの人々を対象
とする一般の放送局、いわゆるマス・メディアには期待でき
ない。むしろ、コミュニティに根ざすコミュニティメディア
(コミュニティFM局が中心)にこそ解決の方途がある」との
声が多くあがる中、岩城 主席解説委員は、東京キー局を
中心に、全国的に放送を展開する民間放送ネットワークだから
こそ担える役割があるはず、との視点から講義を行いました。
「放送局は公共的な使命を担っており、一刻たりとも放送電波
が送れなくなること、いわゆる"停波"があってはならない」
「震災後、電力供給の危機にさらされる中、放送を続けるため
に自家発電機を稼動させるための燃料を必死で工面しながら
放送を続けた」「東日本大震災の被災現場の渦中にいた、ある
記者は、自分の故郷が津波に飲み込まれてゆくのを目のあたり
にしながら、ただその光景を記録し続けたが、そのやるせなさ
がいかばかりだったか」「現在のテレビ放送は24時間という
限られた時間の中でしか何かを伝えることができないが、
それを超えるにはどうすればよいか」
マス・メディアとしてのテレビ局が、東日本大震災で直面した
課題を正面から受け止め、もっと視聴者に身近でありたいと願う
、強い思いがこもった講義が展開されました。
一方、これを受け止めた受講生たちは、大震災に際し、テレビ
放送が果たした役割への一面的な評価でしかその役割を考えて
いなかったことに気付かされました。講義を通じてマス・メデ
ィアからコミュニティメディアに至るまで、幅広くメディアが
連携してゆくことが大切だとの考えを持つようになったようです。
JNNでは、岩城主席解説委員を中心に、テレビが震災報道において
24時間という固定した放送の枠組みを超える第一歩の試みとして
『3.11大震災 記者たちの眼差し』を震災後1年の節目の日に
あわせて刊行しました。歴史の証言者として震災報道にかかわっ
た放送ジャーナリストの記録を「時間枠」にとらわれることなく
世の中に提示したものであり、東日本大震災の各種プロジェクト
に取り組んでいる産業社会学部でも大いに参考とし、また議論の
材料としたい取り組みです。
文責:BEN