11月18日(木)に是枝裕和教授の特別講義
「対論:是枝裕和監督と4人のクリエーター~表現の可能性を求めて~」
の第1回目が行われました。
この企画は
本学に客員教授として迎えて今年6年目になる映画監督の是枝裕和氏と
第一線で活躍するクリエーターと共に、映画・テレビ・文学・デザイン・音楽・
ファッションなどの広範囲のテーマについて語り合う全3回の特別公開講義です。
今回はゲストに
東海テレビ放送のプロデューサー「阿武野勝彦氏」とディレクター「齊藤潤一氏」
をお招きし、お二人が制作されたドキュメンタリー作品「裁判長のお弁当」と
「はたらいてはたらいて」を上映し、その後「テレビとはなにか?」をテーマに
是枝裕和教授と対談していただきました。
阿武野勝彦氏 齊藤潤一氏
ドキュメンタリー、映像において「わかりやすさ」を求めている私たち視聴者に対して
「わかりやすいもの、受け入れられやすいもの」を制作するのではなく、「考えさせら
れるもの」を制作していきたいと熱く語っておられました。
制作において、ものごとの本質や根底にあるところまで掘り下げて表現しようとすると、
何を伝えたいのかわかりにくくなってしまうのが当然です。
しかし、だからこそ制作者の意図を読み取るだけではなく、自分なりの観点をもちながら
観てほしい、と両氏は伝えておられました。
こうした制作手法には、批判の声も少なくないとおっしゃられていましたが、
そういった反響があってこそ「生きた映像」が作れたと感じる、次の制作にも生かせると
語っておられました。
また、ドキュメンタリーを制作するにあたって
「日の当たらないところに焦点をあてたい」という阿武野氏と齊藤氏の言葉が衝撃で印象的でした。
今回上映された「裁判長のお弁当」にもそのお二人の想いは現れています。
密着をした裁判官室では、ただただ黙々と机で事件の記録を読み、判決文を考え
ワープロに向かう単調で全く変化の無い毎日が映されていました。
しかし取材する画面で唯一変化があった時間は昼食と夕食のお弁当。
そのお弁当に焦点を当て、私たちと離れた存在である裁判官を身近なものに感じさせていました。
参加した学生からは、
・ 「お弁当」という裁判長と画面に登場しない奥さんとのささやかな繋がりに注目
しているところからゲストのお二人の温かい人柄を感じました。
・ 「裁判長の一日」というタイトルでもなく「裁判長の仕事」というタイトルでもなく、
「お弁当」に焦点を当て、裁判長の存在感を際立たせているところに魅力を感じました。
・ 裁判官の張り詰めた表情が映し出された映像の中で、心温まるお弁当のシーンは優しく、
カメラの位置、撮る内容が中立で、観ている側にメッセージを強要することのないもので、
とても自由に感じることのできるドキュメンタリーであった。
など様々な感じ方があり、考えがありました。
現代の番組にはテロップが頻繁に使われており、「読み物」と化している中で、
今回上映されたドキュメンタリーには、テロップは1度も出てこず、聞き取りにくい場面は
ナレーションで補っていました。「声を聞く」「画を見る」ことに集中させる・・
ここにも映像制作に対する両氏の想いが現れていました。
制作者・取材対象者・視聴者の想い、様々な想いが交錯する中で制作する映像・・
さまざまな批判や反響もある中で常に限界に挑戦している阿武野氏と齊藤氏、そして是枝監督。
お三方の対談に、集まった多くの参加者は、熱心に聞き入り、考えさせられる貴重な時間となりました。
次回の是枝裕和客員教授 特別講義【第3回目】は・・・
12月23日(木・祝)14:40~16:10
ゲスト:コミュニケーションディレクター・アートディレクターの森本千絵氏