津止 正敏教授 の VOICE

VOICE

取材時期:2016年

津止 正敏教授 教員

研究テーマ
ケアする人のケアの臨床研究
地域福祉プログラムの臨床研究
教員詳細

社会との接点の在り方を常に意識する研究者に育って欲しい

先生は、どのような経緯から現在の研究テーマを設定されたのでしょうか。

私は地域福祉現場に20年ほど従事してきましたが、その現場は時代の変容を最もシンボリックに現象化する福祉分野という特徴を有しています。家族のケアを巡っても同様です。

50年前「嫁が49%と半数を占め、次が配偶者(大部分が妻)で25.6%、3番目が娘で14.3%と、9割以上が婦人の肩にかかっている」(1968年9月14日朝日新聞朝刊)と報じられた介護者の世界は激変し、介護する人される人の関係性の多様化がすすんでいます。もう主たる介護者の3人に1人は男性と激変し、実数でも優に100万人を超えています。認知症対策は国家戦略となり、老老介護は圧倒的多数派となり、介護する人のケアも必要です。あらゆる社会指標をとってみても「介護のある暮らし」が私たちの暮らしの実態になっているのですが、社会はそれを標準にするには至っていません。

介護と暮らしの実態変容は進むが政治経済社会の構造改革が追い付かない-それゆえ深刻化する福祉や介護を巡っての問題状況に対抗し生活現場でのボランタリーな相互支援の地域福祉の取り組みが生成する背景要因がここにあるともいます。私の近年の研究と臨床場面となっている男性介護者の抱える課題もまたそのシンボリックな存在といえましょう。

長く従事してきた地域福祉現場で呻吟する高齢者家族、障害者家族と接し、その組織化活動に関与してきたことが、私の研究の動機になっています。

先生は、これまで研究上の大きな困難にぶつかったことがおありでしょうか。
また、その場合どのようにしてそれを克服されましたか。

現場に足を運び、課題を抱える当事者との協働作業を通して課題克服の道を探る、ということに尽きると思っています。私はこの手法を地域福祉における臨床的研究方法と呼んでいます。

地域福祉の問題現象の発生現場あるいは地域福祉活動の実践現場さらには地域福祉運動の展開現場としての地域社会に、自ら足を運び関係者との協働作業を行い、先行研究に依拠しつつ社会科学的分析を行いながら、人々の抱える諸問題の実態の把握に努め、必要な条件とその実現に向けてのプロセスとプログラムを構想していくという、地域好福祉実践の発展に寄与し自らの研究内容をさらに深めていく、と説明できると思います。こうした問題や活動、運動の発生現場に研究者自らが臨んで、関係者と共に望むべき方向を探り出していくというような臨床的研究の蓄積と精査こそが、息苦しさを覚えるような閉塞感漂う近年の地域福祉研究に活性化をもたらしていくリアリティある道だと考えています。

私は、困難にぶつかったときはいつも現場にもどり、関係者と一緒に考え汗を流すということを忘れないようにしています。

2年間の修士課程を終えて社会に出ていく院生に対して、大学院時代の成果をどのように実社会で生かしていくか、アドバイスをお願いします。

私が専門とするような福祉や介護が、生きる分野はこの社会に広範に生まれています。健康福祉や交通福祉、園芸福祉等々連辞符福祉とでもいうような、全体社会が福祉・介護を包摂するような社会像を高齢社会は強く要請しています。時代と社会の要請に応える専門職として巣立ってほしいと願っています。

将来研究職を目指す院生が早い段階から取り組んでおくべき課題があるとすれば、それは何でしょう。

社会福祉現場に鍛えられた経験を有し地域社会の暮らしの実態を主要な研究テーマとしてきた私から言えることがあるとすれば、社会から遊離しない研究のテーマと方法の探索ということかもしれません。社会の役に立つ/立たないという狭い功利的なことではなくて、社会との接点の在り方を常に意識する研究者に育って欲しいと思います。