岡田 桂 教授 の VOICE

VOICE

取材時期:2019年

岡田 桂 教授 教員

研究テーマ
スポーツとジェンダー/セクシュアリティの関係性、
スポーツ/フィジカル・カルチャーと身体の理想像、
二十世紀初頭の英米における柔術ブーム
教員詳細

解くべき主題を発見し、その考えを知らせたい領域の価値観を学び、文章で説得的に表現する…というプロセスは、社会の多くの局面で求められるものでしょう

先生は、どのような経緯から現在の研究テーマを設定されたのでしょうか。

もともと文学部で英文学を専攻していた頃、ある書籍を通じて、ヘミングウェイの作品やエッセイにおけるアメリカ野球の描写が、アメリカ人にとっての野球をどこか神秘的で特別なイメージを抱かせるものにした、ということを知りました。それまでの自分にとって、スポーツは知的なものからは遠く、ましてや学問の対象になるなどという発想がなかったため、この「スポーツを文化としてとらえる」という視点にとても興味を惹かれたことを憶えています

とはいえ、当時、文学の研究としてスポーツを扱うということは一般的ではなく、紆余曲折を経た結果、体育学の研究科へ進学したことが研究テーマの設定を決定づけました。ヘミングウェイはアメリカ的な男らしさや男性性の価値観を良く表す作家として有名で、ベースボールもまた男らしさの理想と結びついた文化です。そうした意味で、興味の発端はスポーツとジェンダーにあったのですが、修士課程で公共政策を専攻したことから、体育学の博士課程でも当初は英語圏のスポーツ政策を研究していました。

ただ、やはりどうしてもジェンダー研究への興味が絶ちがたく、悩んだ結果、当時の指導教官にテーマの変更を相談したところ、「私もあなたの興味と研究テーマがフィットしていないと思っていたので変えたら良い」といわれ、現在に至ります。その時は「そう思っていたのなら早く言ってよ!」と思いましたが(笑)、現在では変更を促して下さったことにとても感謝しています。

先生は、これまで研究上の大きな困難にぶつかったことがおありでしょうか。
また、その場合どのようにしてそれを克服されましたか。

自分の場合、学部、修士、留学、博士課程のすべてで所属した研究領域が異なることから、学問の専門性ー具体的には社会学の専門知識と方法論の不足、そしてその学習方法で大変悩みました。私が自分の研究テーマを分析する方法論を社会学に定めたのは、博士課程進学後と大変遅い時期です。結果として、博士課程在籍の数年間は、基本文献を読んだり、理論を学びつつ社会学的な感覚を身につける時間に充てざるを得ませんでした。

現代の社会学は“独学が不可能”といわれるほど多岐にわたっているため、他の研究科や学部の授業にもぐったり、学外の研究会などに積極的に参加することで、文献の理解などが独りよがりにならないよう、なんとか追いつく努力をしていたように思います。結果として、この困難を克服できたかと問われれば、「できていない」と答えざるをえないのですが、同時に「その分野をすべて俯瞰できる人などいないのだ」という腹の括り方も憶え、少なくとも自分のテーマに関連する分野の研究の内容は判断できるよう、現在も地味な努力を続けているつもりです。

2年間の修士課程を終えて社会に出ていく院生に対して、大学院時代の成果をどのように実社会で生かしていくか、アドバイスをお願いします。

私は常々、修士論文は人生で書く最も難しい論文の一つではないかと思っています。卒論が必修でないこともある中、多くの人にとっては修士論文が人生で初めて書く本格的な学術論文になるのではないでしょうか。しかも、その学問分野の知識や理論、表現や説得のマナー自体を身につけながら、同時に自分のテーマに取り組まなくてはならず、言ってみれば、手探りで地図を描いていくようなイメージかもしれません。

しかし、解くべき主題(問題意識)を発見し、その考えを知らせたい領域(人々)の価値観を学び、そこで受け入れられるように文章で説得的に表現する…というプロセスは、かなりの普遍性を持つものであり、社会の多くの局面で求められるものでもあるはずです。ネットの発達で結果的にテキストの重要度が増す中、こうした論理的な文章による説得・論述の技術を随所で発揮して欲しいと願っています。

将来研究職を目指す院生が早い段階から取り組んでおくべき課題があるとすれば、 それは何でしょう。

上記で述べた自分の経験に即して言えば、やはり、なるべく早い時期に自分の研究テーマと方法論の大筋を定めることが重要かと思います。学部・修士・博士課程を通じて、基礎的な勉強に系統的に集中できる時期が早ければ早いほど、その後の時間を有利に使えることに繋がるのではないでしょうか。