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松尾 剛 先生(法学部)

 

テーマ:悪を考えるためのフランス文学

物事を考えるにはアブノーマルな状態から出発しなければならない、と説いたのは柄谷行人でした。たとえば、経済について考察するなら恐慌を、肉体や精神なら病気を出発点にすべきだというのです。それならば、私たちも、悪を切り口に人生や社会について考えてみませんか?(フランス語では悪という単語は、同時に病気を意味します)。ここではフランスの小説から、悪をテーマにしたものを選んでみました。波乱に満ちた物語を楽しみつつ、人生や社会について考えてみてください。


『マノン・レスコー』
アベ・プレヴォ著(岩波文庫、2007年)

若きエリート騎士のデ・グリューは、美少女マノンに一目惚れしたときから、悪の道を突き進みます。一途な心で彼を愛しながら、貧しさへの恐怖に駆られて悪事を働くマノン。それに巻き込まれ、ついには殺人さえ犯してしまうデ・グリュー。堕ちていくふたりの恋の行方は? 男を破滅させる〈運命の女〉を描いた恋愛小説。少年の狂った恋心が、18世紀の小説とは思えないほどリアルです。

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『カンディード』
ヴォルテール著(岩波文庫、2005年)

作者は啓蒙思想を代表する哲学者ですが、そんな前知識はなくとも、読んでこれほど面白い物語はありません。「この世のすべては善である」との教えを信じる主人公カンディードは、しかし、世に出るや否や、無数の悪に遭遇します。戦争、殺戮、暴行、人身売買。どこまで行っても悪意に満ちた世界をさまようカンディード。そんな男が艱難辛苦の果てに見出した答えとは? 波瀾万丈の冒険譚をどうぞ。

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『危険な関係』
ラクロ著(岩波文庫、1965年)

恋する者の苦しむ姿に無上の喜びを覚えるメルトイユ侯爵夫人と、女性の征服こそが生き甲斐とするヴァルモン子爵がタッグを組み、周囲の人々を片端から毒牙にかけてゆきます。可憐な少女、純情な青年、貞淑な夫人など、あらゆる登場人物がふたりの奸計にかかって破滅していきます。彼らの悪逆を止める手立てはないのか? 18世紀に書かれた書簡体小説の傑作。どこかでふたりの悪魔に憧れてしまうのは私だけでしょうか?

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『閨房哲学』
マルキ・ド・サド著(河出文庫、1992年)

サディストの語源がこの作家にあることをご存じでしょうか。フランス革命を生きた彼の作品は無数の性倒錯と残虐に溢れ、そこからサディストなる語が生まれたのでした。本作の登場人物もまた、性倒錯、窃盗、暴行、果ては殺人までも理論的に正当化し、実行します。澁澤龍彦の邦訳では、あまりに過激な性描写や残酷なシーンはカットされているものの、それでもサドの毒は充分に強力ですので、お読みになる方は心してお臨みください。

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『アドルフ』
コンスタン著(岩波文庫、2010年)

いっときでも愛し合った相手に、別れを告げたことがありますか? 気持ちが冷めたとはいっても、人間関係は自分だけのものではありません。そんな当たり前の現実を、恋愛小説の古典『アドルフ』で再確認しましょう。愛してもいない恋人と別れることができず、相手を苦しめつづけ、ついには死に至らしめる気弱な悪人アドルフの物語は、フランス文学史上に燦然と輝いています。

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『赤と黒』
スタンダール著(岩波文庫、1958年)

製材所の息子ジュリアンは、自分の階級から抜け出そうと、生まれながらの知性と美貌を武器にして、出世の階段を駆け上ります。ついには貴族の家庭に入り込み、令嬢との婚約にまで漕ぎつけたジュリアン。そんな得意絶頂の彼に届けられたのは、かつての恋人がしたためた一通の手紙でした・・・。悪を渇望しながらも悪に染まりきれないジュリアンの姿が限りなく美しい、フランス文学の傑作です。

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『シャンパヴェール悖徳物語』
ペトリュス・ボレル著(国書刊行会、1980年)

この短編集が物語るのは、愛憎に駆られた男女が繰り広げる陰惨な暴力の物語であり、その結末にはまったく救いがありません。とくに『美しきユダヤ娘ディナ』では、フランス文学史上稀に見る非道が語られます。幸せを目の前にして、行きずりの男に暴行・殺害される少女。しかも犯人は処罰されず、悔恨もしない。読めば読むほど気が滅入ると同時に、このような悪を生み出した社会に対して、激しい怒りを覚えます

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『従姉ベット:好色一代記』
バルザック著(藤原書店、2001年)

心秘かに思いをよせる青年を、若く美しい姪に奪われた老嬢ベット。嫉妬と憎悪に燃える彼女は、妖婦ヴァレリーを操って、親戚一家を破滅の淵へと追いつめていきます。次々とヴァレリーの色香に惑い、全財産をこの〈女の皮を被った蛇〉につぎ込む親類縁者の男性たち。勝利の美酒に酔うふたりの悪魔。ところが・・・。文豪バルザック晩年の傑作。〈偉大さにまで高まった悪のエネルギー〉に震撼せよ。

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『悪魔のような女たち』
バルベー・ドールヴィイ著(ちくま文庫、2005年)

19世紀末のフランスが生んだ傑作短編集。6つの物語が描き出すのは、愛欲にまみれた〈崇高な地獄〉。なかでもお薦めは、恋敵を毒殺してなんら良心の呵責を感じない魔性の女剣士を描いた『罪のなかの幸福』と、目の前で恋人を扼殺され、彼の心臓を犬の餌にされた貴婦人の物語『ある女の復讐』。まさに悪魔のような男女が跳梁跋扈する物語集です。

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『金(かね)』
ゾラ著(藤原書店、2003年)

フランスの金融界を牛耳ろうと新銀行を設立する主人公サッカールの生き様を通して、19世紀のパリで猖獗を極めたマネーゲームを活写した文豪ゾラの傑作。情報操作や粉飾決算、インサイダー取引など種々の悪事に手を染めてまで自社株を高騰させ、メガバンクに戦いを挑む男の挑戦と敗北の物語。現代世界の投機ブームと寸分違わぬ経済事情には戦慄すら覚えます。

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『肉体の悪魔』
ラディゲ著(新潮文庫、2004年)

第1次世界大戦下のパリ。高校生の主人公は人妻マルトと恋に落ちます。しかし夫を戦地に送り出している彼女との恋は、不倫であるのみならず、祖国への裏切りでもありました。そんな中で判明したマルトの妊娠。もちろん父親は主人公・・・。自分に忠実であるがゆえに、周囲のすべてを傷つけてしまう残酷で美しい青春を描いた恋愛小説の傑作。ちなみに本書が出版されたとき、作者は20歳。まさに神童!

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『テレーズ・デスケルウ』
モーリアック著(講談社文芸文庫、1997年)

今は亡きカトリック作家の遠藤周作がこよなく愛した小品。旧弊な田舎町で、窒息しそうな家庭生活を送る主婦テレーズは、ふとしたはずみに夫に毒を盛る快感を覚えてしまいます。日々少しずつ夫の体内に蓄積されていく毒物。なぜ彼女は夫を殺そうとしたのか? そもそも彼女に殺意はあったのか? ノーベル賞作家の名作を、遠藤周作の日本語でどうぞ。

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『夜の果てへの旅』
L=F・セリーヌ著(国書刊行会、1985年)

人間の悪と悲惨を描いた点では、本書の右に出るものはないでしょう。世界中を旅する主人公が目にするのは、強者が弱者を搾取する非情な社会の姿ばかり。パリで医者を開業しても、やって来るのは、遺産狙いで母を殺そうとする息子夫婦など、利己的で陋劣な人間だけ。夜の果てに向かう旅路に終わりはあるのか? 悪について考えたい夜長に、ぜひご一読下さい。

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『工場日記』
ヴェイユ著(講談社学術文庫、1986年)

著者は両次大戦間の女性哲学者。労働者の生活向上を訴える彼女は、彼らの苦しみを体験しようと、生来の虚弱体質を顧みず、無名の工員として工場に潜り込みました。本書はそのルポルタージュです。社会悪に身をもって立ち向かおうとするヴェイユは、いわば現代のジャンヌ・ダルクであり、私のような凡人でも、彼女のごとく生きられたら、と願わずにはいられません(無理だけど)。

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『奇妙な廃墟』
福田和也著(国書刊行会、1989年)

「人道に対する罪」とは、現代社会における最大の悪のひとつでしょう。本書はそんな悪を積極的に擁護し、ファシズムの側に立って文学作品を創造したフランスの作家を論じたものです。文学を学ぶことは人格を陶冶することとする素朴な教養信仰を、木っ端微塵に打ち砕く力作。ちなみに著者は某テレビ局の朝の情報番組に出演しているあの人です。

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『異邦人』
カミュ著(新潮文庫、1995年)

「人を殺したのは太陽のせいだ」の名台詞であまりにも有名。殺人それ自体よりも、母の葬式で涙を流さず、喪に服しなかったがゆえに裁かれるムルソーの物語をとおして、悪について考えてみましょう。なお、フランス語の基礎を学んだ方は、ぜひ原書にもチャレンジしてください。複合過去を多用した単純な文体で綴られる本書は、はじめて読むフランス語として最適です。

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『眼球譚』
バタイユ著(河出文庫、2003年)

16歳の「わたし」は遠縁の少女シモーヌと出会い、倒錯した性の狂乱に身をまかせるようになります。乱交の果てに辿り着いたのは、無垢な少女の自殺。そして神父を殺害して眼球を刳り抜くことでした・・・。グロテスクな性行為が、奇妙な球体幻想とともに語られる至上の悪の物語。卑猥で残虐な描写に充ち満ちていますので、その点ご注意下さい。

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『ブレストの乱暴者』
ジャン・ジュネ著(河出文庫、2002年)

港町ブレストに軍艦から降り立ったのは、美しき水兵クレル。方々の寄港地で殺人を犯した彼は、ここでもまた、麻薬密輸の共犯者を殺害し、あろうことか、ひとりの少年を実行犯に仕立ててしまいます。非情な殺人者クレルをめぐって、彼に恋する上官、警官とその密偵、娼館の経営者など、怪しい世界の住人たちが繰り広げる、淫靡な愛と裏切りの物語。〈泥棒作家〉ジュネの怪作を澁澤龍彦が訳しました。

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『悪童日記』
アゴタ・クリストフ著(ハヤカワepi文庫、2001年)

アゴタ・クリストフはハンガリー生まれ。1956年の動乱を避けてスイスに亡命した彼女は、20歳を過ぎて習得したフランス語でこの小説を書きました。本書は著者の体験を反映して、わけもわからぬままに戦争に巻き込まれ、翻弄される人々の悲惨を描きます。そんな悪意に満ちた世界を、したたかに生き抜く双子の <ぼくら> 。現代フランス文学の傑作です。ぜひ一読ください。

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