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城戸 義明 先生(理工学部)

 

書評~全体を通して~

ここで挙げた本は、ほとんど(③⑧⑪を除く)は、私が20歳代に読んだものである。もう40年ほど前のことであるが、今もう一度再読しても、その感動が失われることはなかった。物理、生命科学、俳句、絵画、音楽から一つずつ、哲学・宗教と小説より2つずつ選んだ。最後の「貧困大国アメリカ」は続編と完結編を含め全3冊からなる。現代社会の病巣の一部を垣間見ることができるであろう。私の専門の物理に関して挙げた1冊は、量子力学の不思議な産物スピンをめぐる歴史を、その研究にかかわった多くの人の物語として描いている。大学で、自分の専門の勉強・研究に打ち込むのは最重要課題であるが、それ以外の広い世界を見ておくことは、人生をより豊かに、強く生きてゆくためにも大切なことである。


『スピンはめぐる : 成熟期の量子力学』自然選書
朝永振一郎著(中央公論社 1974年)

電子はもっとも身近な存在(見えはしないが)だが、なぜ固有の磁石(磁化の方向は2種類しかない)なのか、未だ不明である。その磁気モーメント(磁石の強さ)は、電子の固有の角運動量すなわちスピン(本来は自転の意味)によって表わされる。本書には、スピンというアイディアの出現とそれをめぐるさまざまな物語が描かれている。出てくる数式を理解するには、量子力学の基礎を身につけている必要があるが、スピンをめぐる物語としても十分楽しめるし、専門家にも示唆に富んだ含蓄のある好著である。

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『偶然と必然 : 現代生物学の思想的な問いかけ』
ジャック・モノー著 ; 渡辺格,村上光彦訳( みすず書房 1972年)

著者は、分子生物学の泰斗でありノーベル医学生理学賞の受賞者であるが、フランスの5月革命(1968)では、デモの先頭に立って闘った闘士でもある。ここで熱く語られるのは、ワトソン・クリックによって解読された遺伝子の2重らせん構造にまつわるもので、その複製機能(必然)と生命としての多様性をもたらす偶然性についてである。本書は、デモクリトスによって語られた"自然界のありとあらゆるものは、偶然と必然の果実である"という言葉で始まるが、これは本書を貫く核心である。本書は、ヨーロッパの本屋のみならず、空港その他の売店にも並んだベストセラーだったとのことで、ヨーロッパの文化の層の厚さを思い知らされる。

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『科学・哲学・信仰』レグルス文庫
村上陽一郎著(第三文明社 1977年)

著者は、科学史・科学哲学の研究者である。本書では、完全な客観性の上に構築されたとされる科学においても、人為依存性のあることが、懇切丁寧に説かれている。主観と客観を分離し、客観の世界を拡大して、主観を縮めていくことに、近代科学の論理構造の基礎があったとも指摘している。主体の世界が個我へと縮小した現代の危機的状況は、いかにして打破できるのか?生きとし生けるもの一般に対する「愛」にまで、人間の拡大が進んだとき、われわれ人類は、自然を征服によって支配するのではなく、互恵によって制御する新しい知の力を獲得すると述べている。合理的と考えられている科学的知識体系にも、いっさいの経験・論理や合理的価値基準を超えた、さまざまな場面での"信じる"という基本前提が不可欠であるとしている。

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『夜と霧』
ヴィクトール・E・フランクル [著] ; 池田香代子訳(みすず書房 2002年)

本書の原著のタイトルは、「強制収容所における一心理学者の体験」であるが、ナチスと国家の敵の名のもとに、夜間、家族ぐるみ強制収容所に送り込む暗号司令「夜と霧」が日本語のタイトルとなっている。私自身、本書をひも解くのは心重い難事であったが、読み始めて一気に読了した。著者は、当時新進気鋭の心理学者であったが、ナチスのオーストリア侵攻によって、両親、妻と2人の子供をすべて失い、彼一人が奇跡的に生還した。本書は、地獄の深淵を、感情を抑制し、あくまで客観的な叙述に徹して描いている。本書を一気に読了し終え、異様な感動に打ちのめされたのは、その抑制された叙述・著者の類まれな良心によるものである。それを支えたのは、おそらく彼の深い信仰であったろう。著者は、収容所から解放され、ある日広い野原を越え、花咲く平野をよぎり、ヒバリの鳴く天を見上げて跪き、「この狭きより我は主を呼び、主はわれに広き自由の中に答えたもう」の声を聞くのである。

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『善悪の彼岸』岩波文庫
ニーチェ著 ; 木場深定訳(みすず書房 1970年)

私は、哲学者の中で最もニーチェを好む(たいして哲学書を読んだわけではないが)。中でも「善悪の彼岸」が最も好きだ。ニーチェは、「ツァラツストラはかく語りき」に出てくる神の否定者、超人の提唱者として一般に知られているが、彼のバックグランドをよく理解してないと短絡的理解に終わるだろう。ニーチェは、宗教・ニヒリズムからの脱却のための強い精神を求めたのである。彼はドイツ的なもの・体系的なもの、またなによりも偽善を嫌う。本書の魅力はわさびの効いた文明批判・アイロニー(皮肉)であるが(厭世哲学者のショーペンハウエルが、食後にフルートを吹いたという皮肉も面白い)、中に美しい間奏曲が散りばめられている。彼は、トリエステで、疲れ切った老馬が御者に鞭打たれているのを見て、馬にとび付き馬をかばってそのまま失神し、ついに正気に戻ることはなかった。これは「ニーチェの馬」(2012)という映画にもなっている。

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『名画を見る眼』岩波新書
高階秀爾著(岩波書店 1971年)

ファン・アイクからモンドリアンまで29の名画を、歴史的背景と意匠(意図するもの)が分り易く解説されている。各絵に短い副題が付いているのも面白い。これを一読して、実際にこれらの絵を眺めて観るのがベストだが(複製画でももちろんよい)、それでも美術館・展覧会に行けば、絵が語りかけてくるものにより注意深く密やかな期待を抱き、愛着をもって絵に接するようになるだろう。

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『私の好きな曲』ちくま文庫
吉田秀和著(筑摩書房 2007年)

吉田秀和氏が音楽を語る時、音楽に対するひとかたならぬ愛情とスコアーに基づく精緻な裏付けに深い感銘を覚える。本書では、バッハからベルクまで26曲について、その曲の素晴らしさが精緻な眼(知性)で情熱的(感性)に語られている。冒頭"マタイ伝による受難曲"(バッハ)が、芸術を超えた最高のものであり、好きという範疇を超えた存在と明言しているのは印象深い。(バッハには、名声を求めて曲を作った形跡がまったくない)。いずれにしても、本書を読めば、きっとその曲を是が非でも聴いてみたいと思うことだろう。

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『竹西寛子の松尾芭蕉集・与謝蕪村集』わたしの古典
竹西寛子著(集英社 1987年)

大学の入試で、芭蕉と蕪村の句を対比し、芭蕉の句がいかに深く優れているかという芥川龍之介の評論に出くわした。私も漠然とそのように考えていたが、「郷愁の詩人与謝蕪村」(萩原朔太郎)や「北寿老仙を悼む」などを読んで、蕪村の句に引かれるようになった。さしずめ、芭蕉をドストエフスキー型とすれば、蕪村はチェーホフ型に該当するのではなかろうか。本書の冒頭にある、「蕪村のかなしみが芭蕉のかなしみより浅いとは思われない」という著者に私も賛同する。むしろ私は蕪村の方を好むが。本書は、2人の俳聖に寄り添った感性・知性に富む優れた解説となっており、日本文学の真髄にも触れることのできる好著である。

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『さぶ』新潮文庫
山本周五郎著(新潮社  1976年)

市井に生きる名もなき人々(名を残すこともない)の熱き生きざまが、少し知恵遅れだが純真な"さぶ"と熱血漢・栄二との友情を通して語られる圧巻の物語。

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『オー・ヘンリー傑作選』岩波文庫
オー・ヘンリー [著] ; 大津栄一郎訳(岩波書店 1979年)

オーヘンリーも市井に生きる名もなき人々の哀歓を、情感豊かに、ときにユーモアをもって描いた。中学3年の英語の教科書にあった「最後の一葉(The Last Leaf)」が印象深い。ニューヨーク・グリニッジ・ヴィレッジに住む画家の卵(少女)と老いぼれた老画家の物語である。インフルエンザにかかり、窓から見える壁にはう蔦の葉が一枚また一枚と落ちて行き、最後の葉が散った時自分も死んでしまうと思いつめる少女。雨と風の一夜、最後の一葉が散った後に描いた老画家の絵が、彼女の生きる意欲を呼び戻す。それが、老画家の最後の絵らしい絵であり、彼が常日頃予告していた彼の傑作であったのだ。

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『ルポ貧困大国アメリカ』岩波新書
堤未果著(岩波書店 2008年)

中国の台頭があるとはいえ、まだアメリカは軍事的にも産業的にも、依然世界のトップの座を保っている。本書の著者は、ニューヨークで学士、修士号を取得し、野村証券勤務中、隣のビルから9.11テロを眼前に目撃し、ジャーナリストに転身したという。脱稿はリーマンショックの1年前だが、サブプライムローンに関する厳しい指摘がなされている。本書は、アメリカの貧困層の現場の取材を通して、現在、アメリカのみならず世界における市場原理に基づくグローバリゼーションに対する告発の書となっている。この意見に賛同するか否かは別にして、学生のみなさんにぜひ一読をお勧めしたい。

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