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篠田 剛 先生(経済学部)

2017.07.12


財政の「窓」から社会を見つめ、これからを生きる。

『財政から読みとく日本社会 : 君たちの未来のために』
井手 英策 著 : 岩波書店 (新書)

財政の本来の役割とは何か?日本財政の特徴から見えてくる現代の日本社会の姿とは?「勤労国家」をキーワードに、私たちが漠然と抱えている疑問や不安、閉塞感の正体を鮮やかに描き出してくれます。1回生でも十分理解できる平易な言葉で書かれており、扱う問題は決して狭い意味での「財政」にとどまっていないので、ぜひ最初に手に取ってほしい一冊です。副題にもあるように、本書はこれからの社会を担っていく若い皆さんのためにささげられています。

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『租税国家の危機』
ヨゼフ ・ アロイス ・ シュンペーター 著 : 岩波書店 (文庫)

「財政需要がなければ、近代国家創成への直接的誘因は存在しなかったであろう」。原書が出版されたのは第一次世界大戦終結後の1918年です。母国の窮状を前にしたオーストリアの経済学者シュンペーター(J. A. Schumpeter; 1883-1950)は、近代国家を「租税国家」として把握し、その発生のメカニズムと同時に危機のメカニズムを論じました。コンパクトながら現代社会の分析にとっても含蓄に富む一冊です。難解に感じるかもしれませんが、学生時代にこそ、こうした古典にもぜひ挑戦してほしいと思います。

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『私たちはなぜ税金を納めるのか : 租税の経済思想史』
諸富 徹 著 : 新潮社

税金は「支払う」ものではなく「取られる」もの?税金といえばこうした否定的・受動的なイメージがつきまといますよね。しかし、市民の同意なしに国家が税を一方的に徴収することはできないはずです。国家もまた税なしでは存続できません。では、どのような税であれば、私たちは同意できるのでしょうか?ここに歴史上様々な租税思想が展開することになります。市民革命期から今日のグローバル化の時代までを扱う本書は、いま税について根本的から考えるための最良の一冊といえます。

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『国債の歴史 : 金利に凝縮された過去と未来』
富田 俊基 著 : 東洋経済新報社

国債の金利にはその国の過去と未来が凝縮されている――このシンプルなテーゼに導かれながら、本書は名誉革命後のイギリスから第二次世界後のアメリカまでを縦横に描いた大著です。扱う国もイギリス、アメリカ、フランス、ドイツ、ロシア、日本など多岐にわたります。国債の歴史は議会とともに始まったとはどういう意味か、なぜ各国は戦前には金本位制にこだわったのか、現在の日本国債の超低金利をどう考えたらよいか。高校で学んだ世界史も国債からみればまた違って見えるはずです。これも大学での学びの醍醐味です。

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『国家と財政 : ある経済学者の回想』
石弘光 著 : 東洋経済新報社

実際の政策形成の現場にながく立ち会ってきた財政学者の手による本書は、回想録という形をとりつつも、戦後に展開されてきた政策の理論的背景を学ぶことができる構成になっています。様々な利害関係が錯綜する政策形成の現場においても「最後に決着するのは筋の通った理論を背景にした意見」との著者の言葉から、政策と理論、政治と学問、あるいは政治家と研究者の関係についても考えさせられる一冊です。

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『21世紀の資本』
トマ ・ ピケティ 著 : みすず書房

過去200年にわたる世界各国の膨大な税務データをもとに格差拡大のメカニズムを明らかにした本書は、分厚い経済書にもかかわらず世界的なベストセラーとなりました。資本主義には格差縮小の自動的メカニズムは存在しないこと、労働よりも相続の意義がますます高まっていくと能力主義にもとづく民主主義は危機に瀕すること、税の再分配機能を再構築すべきことなど、今日の課題を解決するヒントが詰まっています。また、バルザックなど文学からの引用も本書を魅力的なものにしています。

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『失われた国家の富 : タックス・ヘイブンの経済学』
ガブリエル ・ ズックマン著 : NTT出版

2008年のリーマン・ショック以降、多国籍企業による租税回避が世界的な関心を集め、2016年の「パナマ文書」の公表によってタックス・ヘイブンの利用が各国で社会問題にまで発展しました。財政危機と緊縮財政、格差拡大と貧困問題の一方で、超富裕層や多国籍企業の税金逃れが反発を招くのは当然といえます。著者は独自の方法でタックス・ヘイブンにある金融資産を約5兆8千億ユーロと試算し、4つの大胆な政策提言を行っています。グローバル化時代の公平な税制を考えるための必読の一冊といえます。

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『男子の本懐』
城山 三郎 著 : 新潮社 (文庫)

本書は戦争の足音の聞こえる1930年前後に首相を務めた浜口雄幸と蔵相を務めた井上準之助を主人公とした経済小説です。第一次世界大戦で停止していた金本位制への復帰をめざした2人は、緊縮財政と軍縮をすすめ、1930年1月に金解禁を断行します。しかし、これが軍部の反発を招き悲劇へ……。そして、その後の日本は次第に財政規律を失っていき戦時体制へと向かっていくことになります。激動の財政史の臨場感を味わえる、学術書にはない小説ならではの魅力がつまった一冊です。

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『山月記・李陵 他九篇』
中島 敦 著 : 岩波書店 (文庫)

経済小説を紹介したので、ここからは財政から離れて、おすすめしたい小説も挙げておきたいと思います。その漢文調の文章の美しさから中島敦の小説はどれも好きなのですが、ここでは本書に所収されている西遊記に題材をとった「悟浄出世」を特におすすめしたいと思います。沙悟浄が河底から外界に出ていくまでを描いた短編です。自己と世界の究極の意味を求めて河底の賢人たちを訪ね歩く悟浄。ユーモラスな妖怪たちを通して哲学的テーマがちりばめられた珠玉の一編だと思います。

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『地下室の手記』
フョードル ・ ミハイロヴィチ ・ ドストエフスキー 著 : 光文社 (文庫)

長く地下室に引きこもった四十男の独白の形式で書かれた小説です。自ら病気と断じる極端な自意識過剰ゆえに世間から隔絶した生活を送る元役人のその男は、狂気じみた自己否定と自己弁護、嘲笑と自嘲、憎悪と悔恨を吐き出します。スティグマに苛まれ、理性主義、合理主義を攻撃する男のエキセントリックな印象とは裏腹に、現代社会に生きる誰もが抱えているものを感じずにはいられません。第Ⅱ部の「ぼた雪によせて」はただただ打ちのめされます。気に入れば同著者の『カラマーゾフの兄弟』や『悪霊』もぜひ読んで欲しいと思います。

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『君たちはどう生きるか』
吉野 源三郎 著 : 岩波書店 (文庫)

最後に、「これからを生きる」という観点から小説を1つ挙げたいと思います。本書はコペル少年の体験とそれに対するおじさんからのコメントノート(「おじさんのNote」)という構成で書かれています。コペル君の小さな発見や友達同士の喧嘩など日常で起こった出来事について、おじさんが豊かな教養をもとにその経験の意義を平易な言葉で語ってくれます。エピソードの一つ一つにも感動しますが、「学ぶこと」と「どう生きるか」ということとを結び付けて考えさせられます。大学生になったら読んでほしい一冊です。

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