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RBS通信

2022.11.30

記事

RBS修了生による座談会~女性のキャリアについて~

集合写真

座談会 メンバー紹介

前田東岐准教授

前田 東岐 准教授

立命館大学ビジネススクール

大塚栄さん

大塚 栄さん

2021年3月 マネジメントプログラム 修了/日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社 経営企画部

谷野百香さん

谷野 百香さん

2021年3月 キャリア形成プログラム 修了/小林製薬株式会社 人事部

角景子さん

角 景子さん

2022年3月 マネジメントプログラム 修了/パナソニック株式会社、AN Label

はじめに

今年度RBSでは、女性のキャリア形成に関連したイベントを複数開催しています。
近年、日本でも女性が働きやすい制度が広く普及しています。また、2015年の女性活躍推進法をきっかけとして、女性の管理職登用を促進しようとする動きがみられるようになりました。
このような社会の変化を背景として、具体的にどのような取り組みが行われているのか、その効果や課題はどのようなものなのか等をテーマに、座談会を開催することとなりました。女性のキャリア形成を支援し、管理職登用を増やすための、企業ごとの取り組みについて、パネリストの皆さんからお話を伺います。
なお、本日のパネリストの皆さんは、RBSの修了生です。在学前から女性のキャリア形成に関心を持っておられ、大学院入学後も、それに関連する問題意識を持ち続けられました。大学院で学んだ成果を、「課題研究」という形でまとめておられます。今回の座談会では、パネリストの皆さんには、所属先の企業の取り組みについてお話しいただきました。具体的には、女性のキャリア形成を支援する取り組みが開始されたきっかけや、取り組みの開始から数年が経過して見えてきた成果および課題について、伺いました。なお、パネリストの皆さんには、事前質問として、「所属先企業での女性のキャリア形成の取り組み」についてお伺いしております。本日は、その流れに沿って座談会を進めさせていただきます。

大塚栄さん
各企業の具体的な取り組み例

女性のキャリア形成の取り組みが始まった時期は、角さんのご勤務先であるパナソニックがいち早く、2000年代の初めには女性の登用を推進する動きがみられました。日本を代表する企業として、社内の女性社員の声や、時代の声に対応してこられたことがわかります。
角さんによると、その後も、「DEI」を方針として打ち出し、多様な人材の働きやすさ追求に、グループを挙げて取り組んでいるとのことです。(「DEI」は、ダイバーシティ:多様性、エクイティ:公平性、インクルージョン:包括性という3つのキーワードの頭文字。)現在、パナソニックにおけるDEI活動の取り組みは、対象は女性だけに限定していません。「多様性を推進する」という方針に、全社を挙げて取り組んでいることがわかります。(参考:パナソニックHP『多様性推進の歴史』)女性のキャリア形成に関する制度としては、女性社員向けの「キャリアストレッチセミナー」や、「PWN(Panasonic Women Network)」という女性社員向けのコミュニティ活動のほか、公式・非公式を問わず数多く展開されているそうです。グループ全体として、一貫したメッセージの下で多様性推進に取り組んでいることがうかがえます。
多くの会社では、2015年の「女性活躍推進法」の制定がきっかけになったようです。大塚さんの所属企業である日本ペイント・オートモーティブコーティングスでも、これをきっかけに取り組みが本格化し、3~5%程度にとどまっていた女性管理職比率を10%台に、という数値目標が設定されるなどしたとのことでした。目標達成のために、「ダイバーシティ推進室」が設置され、この部署が中心となって、取り組みが実施されているそうです。具体的に導入された取り組みとしては、女性登用のためのリーダー研修や、海外子会社への短期出向制度(海外赴任とは異なり3か月程度。社内留学的な位置づけ)などがあるそうです。現在に至るまでに、女性管理職の比率は少しずつではありますが、上昇する傾向にあるそうです。
谷野さんの勤務先である小林製薬では、育児休業中に利用できる在宅勤務制度(2020年からテスト導入)や、選抜型の「女性リーダー育成プログラム(2021年~)」、育休中の学習支援(2021年~)などが実施されています。女性の役職登用を成功させるためには、候補者に経験を積ませること、自信をつけさせることが重要であるとの考えのもと、人事戦略として一貫性のあるフレームワークに則って実施されています。2021年に入社した谷野さんは、課題研究で学んだ成果を活用して、2つ目の「女性リーダー育成プログラム」の実施・改善にかかわっておられるそうです。

前田東岐准教授
取り組み本格化のきっかけ

角さん・大塚さんによると、取り組みが本格化するきっかけとしては、権限を持ったトップ層の存在が大きかったそうです。トップが明確なメッセージを発信したことで、会社としての取り組みの本気度が示され、社内に「当事者意識」を持つ人が増えたとのこと。
それに加えて、制度を利用した人の声だけでなく、幅広い層の「声(組合やオンライン上のコミュニティの声)」を拾っていったそうです。これらの声を制度の改善につなげることで、制度がいっそう利用しやすくしたり、アップデートしたりできたとのことです。様々な人の声に耳を傾けることは、制度を継続するうえで重要だったとのことです。

取り組み後の課題

実施後に課題として見えてきたこともあるそうです。大塚さんによると、「女性を登用するために下駄を履かせたのではないか(逆差別だ)」と、実力が伴わないのに無理して女性登用をしているというような冷淡な声もあったとのこと。そのような声に挫けることなく、継続して実施することによって、誤解は次第に払拭され、女性が要職を占めることに違和感を持つ人も減っていったとのこと。また実際に、女性管理職の比率は向上しているそうです。
大塚さんと角さんのお話として、女性の登用を推進するにあたっては、権限を持つトップの存在が大きかったとのことです。したがって、旗振り役となったトップが退任した場合には、変革のスピードが鈍る点がリスクだったそうです。

座談会風景
まとめ

パネリストの皆さんのお話を通じて、女性のキャリア形成を推進するための取り組みを始める前に比べると、女性の登用は進んだ点は、共通しています。したがって、取り組みを行なうことには一定の成果があったといえます。しかし、課題も残されています。
日本を代表する企業として、多様な人材の活躍推進にいち早く取り組んでいるパナソニックの課題として、角さんからは、組織が大きい分、職場によって温度差が生じているとの指摘がありました。温度差をなくしていくためには、一層のマインド改革の推進、制度の利用促進が必要との考えが示されました。
また大塚さんからは、管理職に就く女性のタイプが限定されているという点が指摘されました。大塚さんによると、「様々な女性にとってのロールモデルがそろっておらず、これまで登用された方には「昭和の男性」的な職場の働き方にも対応できる方が多いとのお話がありました。このことと関連して、谷野さんからは、管理職を希望する人が増えないのは、「管理職の働き方」に魅力を感じない人が多いからであるという指摘がありました。近年行なわれた各種の意識調査においても、「管理職になりたがらない人が増えている」傾向が指摘されています。女性を含めた多様な人材が管理職を目指すかどうかは、これまでの「昭和の男性的な管理職の働き方」が変わらなければならないとの見解が、今回のパネリスト3名からも表明されました。谷野さんの勤務する小林製薬では、管理職の働き方を成績表という形でフィードバックする取り組みが実施されており、管理職が、自分自身の働き方を見直すきっかけになっていると紹介されました。この取り組みに関しては、大塚さん・角さんだけでなく、参加者からも、非常に興味深いとの感想が示されました。

パネリストの3名の皆さんの、修了後の活躍がうかがえる座談会となりました。皆さんのお話の内容が、他社での取り組みや、課題への対応などにつながれば幸いです。

取材日:2022年11月5日