名誉館長あいさつ

立命館大学国際平和ミュージアム名誉館長 安斎育郎

 名誉館長の安斎です。私は、もともとは、東京大学の工学部で原子力工学を専攻した自然科学者です。とくに、放射線防護学という分野が専門だったため、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に起因する原発事故ではテレビ・ラジオ・新聞・週刊誌などからの取材攻勢で難渋しました。原子力分野に関わってきた私は、1960年代後半から一貫して原発政策批判の側に身を置いてきたとはいえ、福島の原発事故は非常に衝撃的で、内心忸怩たるものがあります。

  ところで、放射線防護学を研究する者なら、広島・長崎の原爆被害について学ばないわけにはいきません。そして、それを学んでみると、核兵器が使用されたら放射線防護学などほとんど無力だということが分かります。1970年代、私は核兵器廃絶の問題に関心を染め、市民運動にもかなり積極的に関与してきました。私の関心領域は徐々に核兵器廃絶以外の平和の諸問題にも広がり、1992年に立命館大学国際平和ミュージアムの設立に関与してからは、広く平和の問題一般への関心を育んできました。このミュージアムが、国内外の平和博物館と連携しながら社会的役割を果たすためにそれなりの貢献をしてきたことを嬉しく思いますが、今後とも設立20周年をジャンプ台としていっそう飛躍できるよう、名誉館長として努力したいと思います。


 「名誉‥」というと、「一仕事を終えた人がやめる時などに敬意をこめてつける接頭詞で、実際は閑職」というイメージでしょうか。私は3つの「名誉‥」をもっています。
 一つ目は「立命館大学・名誉教授」。20年以上教員を勤めたことへの褒美のようなものでしょうね。二つ目は「南京国際平和研究所・名誉所長」。私が10年来、中国の南京虐殺記念館との友好関係発展に努力してきたことへのご褒美でしょうか。三つ目は「国境なき手品師団・名誉会員」。私の手品趣味は中学校以来のものですが、2001年に「国境なき手品師団」を立ち上げたトーマス・ヴァーナーさんが、2008年10月に立命館大学で開かれた第6回国際平和博物館会議のときに、「あなたは名誉会員だ」と言ってくれたのです。
  しかし、「立命館大学国際平和ミュージアム・名誉館長」は、隠居や閑職などという言葉とは無縁です。モンテ・カセム館長とタッグマッチを組み、平和のための社会開放型展示施設として、また、平和研究・平和教育の拠点として、内外の関係者の力を借りながら、ますますその発展を期したいと考えています。


  最近、「世界の中の平和な日本、平和でない日本」というタイトルの講演を頼まれました。確かに、国内で戦争が行なわれていないという意味では「平和な日本」かもしれませんが、実際には深刻な基地問題などを抱えているほか、2003年5月~2009年6月の6年間にイラクで殺された市民が8~9万人なのに、日本で自殺した人の数は19万7千人。生きる希望を奪っている日本社会は、構造的な暴力に満ち満ちている非平和的な社会と言わなければならないでしょう。このような問題を解決して平和的な社会を創っていくためには、主権者である私たち一人一人が自らの問題として自覚し、その解決にむけて主体性を発揮する実践的な姿勢を共有しなければならないでしょう。そのためには、平和教育・平和研究・平和運動を相互に密接に連関させながら「平和創造の主体形成」を飛躍的に推進していく必要がありますが、平和博物館はそれら3つの活動領域と深く結びつきながら、内外の関係者の知恵を頂きつつ、魅力的な活動を展開させていきたいと思います。
  教育、研究、講演、執筆、社会的活動、平和博物館運営と、多忙を極める日常ですが、この「世界でも珍しい大学立の平和博物館」をさらに豊かに花開かせるために、名誉館長として貢献したいと思いますので、宜しくご支援をお願いします。

2012年4月

安齋 育郎のプロフィール

1940年、東京生まれ。9人兄弟の末子。東大工学部原子力工学科卒、工学博士。1969年、東大医学部助手となり、東京医科大学客員助教授をへて、86年、立命館大学経済学部教授、88年、国際関係学部教授。現在、特命教授、名誉教授。95年より国際平和ミュージアム館長、08年4月より名誉館長。平和のための博物館国際ネットワーク・執行委員。南京国際平和研究所・名誉所長。ベトナム政府より「文化情報事業功労者記章」受章。

著書に、『地球非核宣言』(水曜社)、『人はなぜ騙されるのか』(朝日新聞社)、『語り伝えるヒロシマ・ナガサキ』(全5巻、新日本出版社、第7回学校図書館出版賞受賞)、『語り伝える沖縄』(全5巻、新日本出版社、第9回学校図書館出版賞受賞)、『騙される人 騙されない人』(かもがわ出版)、『だます心 だまされる心』(岩波書店)、『だまし博士のだまされない知恵』(新日本出版社)など多数。NHK人間講座、日本テレビの「世界一受けたい授業」「ザ!世界仰天ニュース」などにも登場。趣味はマジック、俳句、お絵かき。


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