政策科学とは

政策科学のおもしろさ

「問題解決」精神を備え、
「政策実践」力を持った人材を育成する。

問題指向の学問

政策科学は問題指向の学問と言われます。私たちの身のまわりには様々な問題があります。問題には個人的なものもあれば、社会的なものもあります。問題とは、「困っている」「苦痛を感じている」とか「不安である」、そういった状況のことを言います。政策科学が扱うのは、社会的な問題です。社会に何か共通のことがらで「困っている」「苦痛を感じている」「不安である」といった状況にある人びとがいる事態のことを言います。

問題に対処するというのはどういうことでしょう。「人生相談」がよい例になります。悩みや問題を抱えた人がいまどんな状況にあるのかを正確に知ることが人生相談の出発点です(事実の認識)。そして、どうしてその困った状況に陥ったのかを探ります(原因の探求)。こうして相手の事情を理解したあとで、助言やアドバイスを伝えます(解決策の提示)。

社会的な問題を解決する場合もこれとよく似た推理をします。共通の悩みや苦しみをもった人びとについて、正確な事実を認識し、悩みや苦しみの原因を調査し、そのような状況を克服するための方法を助言します。これら一連の作業を政策分析とか政策提言と呼びます。政策科学は、このような政策分析と政策提言を行なうための学術研究のことです。政策科学が「問題指向の学問」と呼ばれるのはそのためです。

実践指向の学問

こうした問題について勉強し、知識も身につけたとします。しかし、政策科学の学びはそれで完結するわけではありません。政策科学の学びには次のステップがあります—問題を解決するために、どのようなアクションを起こせばいいのか。「アクション」のために必要な学びとはいったいどのようなものでしょうか。

問題解決の「知識」

問題を解決するためには、その問題がどのようなものであり、何が原因でその問題が起こっているかを知らなければなりません(問題の認識)。ある商品の売上が落ちている—なぜだろうと考えます。これが原因の探求です。どこかその製品に使いにくいところ、不便なところがあるのかもしれません。他社の類似製品と較べて価格が高いのかもしれません。おそらく私たちは、何が原因なのかを調べるでしょう(調査)。そして、売上を落としている原因がわかったら、その原因を取り除くためにどうすればよいのかを考えるでしょう(解決手段の探求と選択)。

問題の認識から、原因の探求、解決手段の探求と選択までのこのような一連の知的営みが、政策科学における「知る」あるいは「学ぶこと」ということです。そして「何かを知る」ことは「何かをする」ことと表裏の関係にあることが多いのです。すべて、「知る」ことは「する」ことに結び付いています。政策科学では「する」の部分が「問題の解決」「問題解決へ向けた前進」にあたります。政治や行政や法律、経済の動きや経営戦略、都市問題や環境問題、国際社会の動き、最新の情報技術—これらの知識を問題解決に「活かす」ことが政策科学の学びの特徴です。

問題解決の「意欲」

問題解決は知識だけではどうにもなりません。いま目の前にある問題を何とかしようという気持ちがなければ、問題解決は前進しません。問題解決のアクションを促すのは「意欲」です。より快適で安全な生活がしたいという意欲です。問題解決には実践(つまり「自らやってみる」ということ)が必要です。いくら知識があっても、この「やってみる」という気持ちがなければ、事態はいつまでたっても変わらず、改善されないでしょう。政策科学は、「知識」を「実践」に結びつけるところに特徴があります。

問題解決の「経験」

では、問題解決の意欲というのはどこから生まれてくるのでしょうか。その問題が自分の生活に直に関係している場合は、他人事ではありませんから、問題解決の意欲は自ずと生まれてくるでしょう。けれども、直接自分に関係のあることにしか関心を向けないのであれば、それは学問研究にはなりません。私たちには共感の能力があります。直接自分には及ばなかった被害や不幸を悲しんだり、何とかしなければと使命感をもったりすることができます。

広い視野からさまざまな社会問題に接近するために必要なのは経験を広げることです。学問のはじまりは「驚き」であると述べた哲学者がいます。学問研究に向かうにあたって、実際に見たり、聞いたりする、そうした経験がいかに大切かということです。私たち一人一人の個人生活で経験できることは、ごく限られています。

政策科学部では、経験を広げる機会として学びを位置づけています。いま動きつつある政策問題の現場に出かけたり、政策問題の最前線で問題解決に取り組んでいる人々の話をきいたり、ときには政策問題の解決に参加したり、そういった学び方を重視しています。こうした学びの資源や教材は教室の中にはありません。大学のキャンパスの中にもありません。教室の外、キャンパスの外に政策科学の学びの素材があるのです。政策科学部が、フィールドスタディーを重視している理由はここにあります。それは、現に動きつつある政策問題とともに学ぶということです。これもまた政策科学が実践的な学問であると言われる理由です。

政策科学部の教育上の目的は、「問題解決指向的な精神を備えた政策実践力と政策構想力を持った人材を育成する」というようにまとめることができます。