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豊田准教授が日本地域学会 田中啓一賞(博士論文賞) を受賞しました

政策科学部の豊田准教授が日本地域学会  田中啓一賞(博士論文賞)  を受賞しました。
受賞についてのインタビューです。


聞き手)受賞おめでとうございます。どのような研究をなされたのでしょうか。


豊田)人口流動期における都市部のコミュニティ避難計画に関する研究です。

聞き手)人口が流動する時代とはどのような時代なのでしょうか。

豊田)日本は人口減少に伴う都市部における人口流動期にあり、災害の世紀と呼ばれている21世紀において、更なる猛威が予測されている自然災害に対処する方策が求められています。そこで博士論文では、このような予想されるリスクを軽減し、大震災からの生存確率を高めるための地域コミュニティにおけるコミュニティ避難計画モデルを構築しました。

聞き手)人口が減っている地域コミュニティに固有の防災の課題はどのようなものですか。

豊田)まず、これまでの大震災時の地域コミュニティにおける安全な避難の教訓を整理して、地域コミュニティのより安全な避難のために、防災まちづくりの手法が着目されているものの、防災まちづくりには社会関係資本(住民の地域との関わり〔信頼、規範、ネットワークなど〕)が重要です。一方、都市は定常状態にあるのではなく、常に変動しています。今回受賞した博士論文では、特に、人口減少や少子高齢化という社会変化に伴う今後の都市変容の有力なコンセプトである都市のコンパクト化に焦点を当て、コンパクト化に必然的に伴う人口流動によって社会関係資本が希薄な新住民の割合が都市部において多くなることを大規模調査データより予測しました。これは先に述べた防災まちづくりにとって深刻な課題となります。

聞き手)防災を意識したまちづくりでは、どのように避難計画を立てれば良いのでしょうか。

豊田)私は「コミュニティ避難計画モデル」を提案しました。このモデルは先ほど問題視した社会関係資本の醸成を前提としておらず、PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを援用した「コミュニティ避難システム」の「構築」、「(事前)評価(アセスメント)」、そして「補完」という三段階から構成されています。そして、将来予測される都市と共通の特徴をもっているという共通性、防災まちづくりの効果を測定しやすいという優位性から、本モデルを検証するための対象地域として、地震リスクが存在する地区を設定しました。
まず「コミュニティ避難計画モデル」の第一段階に基づき住民参加型防災(避難)マップづくり、および作成したマップの不参加住民への配布によって、「コミュニティ避難システム」の構築と有効範囲の拡大を検証しました。ここでは「コミュニティ避難システム」の構築を確認するとともに、避難場所に集まり安否確認や救出・救護活動、消火活動などの支援という「コミュニティ避難システム」が有効に作動できるような情報に関する認知の、不参加者への拡大を一定程度は達成できることを示しました。そして、「コミュニティ避難計画モデル」の第二段階「システム評価」と第三段階「システム補完」の検討を行いました。「コミュニティ避難システム」の評価手法として、コミュニティ避難システムの再現性と安全性、そして失敗を含む学習モデルから、ゲーミング・シミュレーションが評価手法として有効なことを理論的に論じ、開発した「避難シミュレーション訓練」を当該地区において実施し、各町内の住民名簿作成および避難場所の追加というリスク対策の決定と実施(リスク・マネジメント)を行える(踏み切る事ができる)ことを示すことに成功しました。

聞き手)コミュニティの避難モデルを作成することが重要であることが分かりました。

豊田)このようにこの研究は、都市中心部において社会関係資本が希薄な新住民が増加し、避難時共助(住民間の助け合い)の発現機会の低下という脆弱性の増大期に入りつつある日本において、避難時共助の発現機会を増加させ、震災後避難時における生存確率を向上することが期待できる介入可能な行動体系によって構成される「コミュニティ避難計画モデル」を設計し、その有効性を明らかにしました。
この研究では地域住民のみを対象にしているため、今後は「コミュニティ避難計画モデル」を進化させて、行政やNGO、大学など多主体による防災まちづくりを促進するための方策を検討していきたいと考えています。


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