研究センターの研究分野

稲盛和夫氏は、日本を代表する経営者であり、稲盛経営哲学は、京セラにおける企業経営の実践の中から生み出され、KDDIの通信ビジネスや日本航空の再生にもその効果を発揮しました。しかし、今や、稲盛経営哲学は、経営にとどまらない一般的な生き方の指針としての哲学であり、単に学問としての哲学にとどまらない実践哲学になっています。

したがって、本研究センターでは、経営学だけでなく、哲学、心理学、経営学、社会学、教育学、政策科学など多様な学術的見地からの研究を遂行します。多様な学術的見地から、正統な学術的手法によって研究を行うこと、そのために多彩な研究者を結集すること、それが本研究センターの研究の活動の特徴です。

本センターの研究テーマを考えるうえで、普遍化という概念を中心に据えました。私達は、稲盛経営哲学だけを研究するのではなく、各学術分野の既存の研究成果や知見と広く照らし合わせ、欧米の研究者とも議論しながら、学術的知見として位置付けたいと考えています。そのことによって、私たちは、稲盛和夫氏の経営哲学が、京セラが発展してきた特定の状況下において、あるいは日本や東アジアだけでしか成り立たないものではなく、稲盛和夫氏の経営哲学を、異なる文化、地域、状況においても、普遍的に役立つものにしたい、一般化したいと考えています。

この中でも、まず、哲学、心理学、経営学の3学術分野での研究プロジェクトから始めます。

哲学分野の研究テーマ例

  • グローバル資本主義において、利己的な個人が利益を追求する欲望が全面的に解放されたと言われている。今日における欲望の形とは何であり、それを資本主義はどのように利用しているのか、それに対して利他の概念はどのようなインパクトを与えるのか、自立的な公正さや貪欲さの抑制などの規範をどのように構想できるかを探求する。欲望の解放と規範の同時構築の意義も探求する。
  • 公共空間の構築は社会の各要素が関与するべきものである。マイクロファイナンスなど利他的性質を持つ仕組みが登場しているのも、こうした公共空間構築に関係している。その歴史的背景や現状、さらには将来的な可能性を探究する。
  • 「企業は悪」対「企業は公器・社会の根幹」、「利己」対「利他」、「協調」対「競争」など稲盛和夫氏は一見対立する概念を企業経営において両立させている。このような両立を哲学によって読み解くことで、規範にもとづく企業経営、高いレベルの資本主義について探求する。

心理学分野の研究テーマ例

  • 戦後日本は、物質的豊かさが幸福につながるとして、それを追求して達成した。しかし、物質的豊かさや健康長寿が実現されても幸福を感じられないとの声は多い。幸福とは何か、幸福の条件などを稲盛和夫氏の利他の概念にもとづく幸福観からも着想を得ながら探求する。
  • 挫折から回復できない、挫折やリスクを恐れすぎて却って身動きが取れなくなるといったことが生きる上での問題となっている。稲盛和夫氏は、幾多の挫折に会いながらも多くのことを達成している。稲盛和夫氏のリスクや挫折に対する考え方や対処法に着想を得ながら、心理学のレジリエンスや複線的生き方などの概念にもとづいて、挫折やリスクを恐れすぎない挑戦する人生の可能性について探求する。

経営学:リーダーシップ分野の研究テーマ例

  • リーダーシップは組織の構成員を動機付け、力を引き出し、イノベーションや組織改革を主導する最も重要な要素として、欧米においても注目されている。稲盛和夫氏自身卓越したリーダーであり、またリーダーシップとはどのようにあるべきかという発言も多く記録されている。稲盛和夫氏のリーダーシップの考え方は欧米と比較して、より人格重視という特徴を持っている。欧米でのリーダーシップの議論を踏まえ、対比させながら、あるべきリーダーシップについて探求する。
  • 組織内学習を通じて、統一された考え方・行動・文化・プラクティスを構成員に伝播・浸透させることはリーダーシップの大きな役割である。Micro-Foundation、Organizational Routine、Motivationなどの観点からそのフィロソフィの伝播・浸透研究する。

経営学:組織論分野の研究テーマ例

  • 稲盛和夫氏は、価値観、フィロソフィ、課題の共有にもとづく全員参加経営を提唱、実践している。従業員は業務を魂を磨く場として考える。そのような考え方は仕事と人生の関係やモノづくりの哲学など生き方にすら影響する。全員参加経営と従業員の心理、組織パフォーマンスの関係などを探求する。
  • 全員参加経営においては、組織文化と公正性、利他、心をさらけ出すなど従業員の心の動きに注目が集まる。また、全員参加の組織文化の人格形成への長期的影響も注目される。これらの関係性について探求する。
  • 利他は、仕事上において個人やチームの中でどのように認識されるのか。また、その「利他」の認識のあり方は、職務に対する個人の意識やチームの活動(仕事に対する誇りやストレス、あるいは営業成績や安全確保・高い質のサービスの提供)においてどのような効果をもたらすのかについて探求する。

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