立命館大学 デザイン・アート学部 / 大学院デザイン・アート学研究科

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ゲスト講義実施報告 2026春 「デジタルデザイン表現演習」
  • 2026年9月
  • 学生生活・活動報告

 2026年5月14日、株式会社TIDS 代表 / インダストリアルデザイナーである上島 弘祥氏を研究科授業「デジタルデザイン表現演習」にてゲストとしてお迎えしました。

 多摩美術大学プロダクトデザイン専攻を卒業後、国内大手家電メーカーのインハウスデザイナーを経てドイツへ渡り、現地スタジオでグローバル企業のアイデンティティ開発やプロダクトデザインに従事された経歴をもつ上島氏。2015年に帰国してTIDSを東京に設立し、現在は大手グローバル企業のプロダクトデザインから、アイデンティティ開発、国内外のエキシビジョンブースのクリエイティブディレクション、商用空間のインスタレーション、産業機器のデモンストレーションユニットまで、人の生活に関わるあらゆる産業領域でクリエイティビティを展開されています。多摩美術大学・愛知県立芸術大学の非常勤講師も務められております。
 講演ではまず、学生時代から国内メーカー就職、ドイツ転職へと至るライフエクスペリエンスを率直に語っていただきました。ドイツの現場に身を置く中で「企業のアイデンティティの研鑽と社会との結びつき」に視座を見出されたという経緯は、海外で働くことの意味を考える上でも示唆に富むものでした。後半では、ご自身のデザイン哲学として、企業の「良き伴走者」として自我を抑え、企業がすでに有しているコアな技術をデザインへと翻訳していくアプローチを紹介。印鑑や包丁などのプロトタイプから最終プロダクトまで実物を持参し、実演を交えて解説してくださりました。とりわけ包丁の切れ味は素晴らしく、技術とデザインが結びつくことの価値を学生も体感的に理解できる、貴重な機会となりました。

 学生からは「本当に面白いお話だった」「上島氏のような仕事を手がけたいという目標ができた」といった熱量の高い反応が数多く寄せられました。特に印象に残った点として挙げられたのは、「短く強い言葉」をデザインランゲージとして定め、それを「羊羹のようなコンパクトでずっしりとした存在感」のように五感へと翻訳していくアプローチ。差別化ではなく企業のアイデンティティそのものを研ぎ澄ますという思想に、ブランディングや企業支援に携わる社会人学生からも深い共感が寄せられ、自社の課題と接続して受け止める声が複数ありました。また「無私の創作 / Be selfless」というキーワードは、自己表現と対象への奉仕の関係を見つめ直す重要な契機となり、「自分のアイデンティティとは何か」というより根本的な問いまで引き戻された学生もいました。さらに、自我を消すことと、歴史や土地の文脈の延長線上に作品を位置づけることを重ねて捉え、「アノニマスな表現」の強さに気づいたという深い考察も生まれました。包丁や血圧計など実物プロトタイプを介した実演は、デザインが思想と身体性をともなう営みであることを体感させ、「最後はこれしかない、という瞬間が来る」という言葉は、創作観に強く響いたようです。海外で働くことへの憧れを新たにし、自分のキャリアにマイルストーンを置き直したと記す学生も複数おり、デザイン観のみならずキャリア観や生き方にまで作用する、極めて教育的効果の高い機会となりました。