2005年6月25日 (第2732回)
歴史学からみた「日本人」像の変容
文学部講師 田中 聡
日本の原像について歴史学的に考えるとき、私たちは「日本人」が古代以来現在に至るまで、一貫してたどってきた歴史を当然のように思い浮かべ、その出発点としての古代をイメージする。
街の書店には「日本人はいつ日本列島に現れたか」「日本文化を貫く個性とは何か」等を論じた本がたくさん並んでおり、そういうものを目にすれば、日本人のもつ固有の文化が日本文化であり、その歴史が日本史であることは自明のことに思われる。
ところが、いざ「日本人」とは何かと問われたら、大抵の人は答えに窮する。形質人類学的な指標(顔立ちや骨格・体質)か、侘び寂びの心性か、和食や日本語か。日本国籍か。つきつめていけば、総ての「日本人」に含まれる要素と想像されるものの多くは特定の人にしか属さないことがわかるだろう。輪郭は意外に曖昧なのである。
こうした「日本人」像がこの百年余の間にどのように創られて現在にいたるかについて、古代史像の変遷を主な素材として考えてみたい。