2008年3月15日 (第2847回)

現代中国文学の最先端 -莫言と李鋭-

佛教大学文学部 教授 吉田 富夫

 現代中国文学界の最先端にいる莫言 (モオイエン)さんと李鋭(リールエイ)さんとは、対照的な経歴を持つ。

 一九五〇年生まれの李鋭さんは、高級幹部の息子として北京で育ち、文化大革命の最中に戸数わずか十一戸の山西省の山村に下放し、そこで文学に目覚めた。

 いっぽう、莫言さんは一九五五年に山東省の農民の子に生まれ、農村で育ち、人民解放軍を経て作家となった。

 二人に共通するのは、農村と農民への熱い眼差しだ。それも、これまでの多くのこの国の作家たちがそうであったように、農民を観察したり、農民に替わって訴えたりするのとはまるで違う。農民そのものとなり、その胎内からの呻きのようにしてことばを紡ぎ出す。その意味で、この二人は、現代中国の農民の語り部なのだ。

 ただ、その紡ぎ出すことばは、莫言さんのそれが油絵の具を何層にも塗りたくったように饒舌であるのに対して、李鋭さんは、ともすれば美文になりたがる漢字表現から装飾をあくまで削り落としたシャープさを追求する。こうしてあくまで対照的な二人だが、中国という重い現実を文学の上で背負うハメになっていることは間違いない。