2008年8月2日 (第2864回)

うつ病と現代のメンタルヘルス

保健センター 教授 鷲見 長久

 今日、うつ病治療の臨床においては、新しい薬物療法が導入されるなど目覚しい進歩をとげています。その反面、発病年齢の若年化や中高年を中心とした高い自殺率など、社会全体を通して見た場合、うつ病についての諸問題はむしろ深刻化しています。

 うつ病の原因は未だよく解明されておらず、近年の治療の進歩にもかかわらず、その発生を未然に防ぐための根本的予防はまだ実現していません。しかし多くの疫学的研究では、生活史上の様々なストレス体験が重要な誘発因子として、うつ病の発症・再発に深く関与している事が示されています。この事から、これらストレス体験への適切な対処が、うつ病予防の重要な鍵となることが示唆されます。

 また、うつ病治療の最新の臨床において、薬物療法と併用して行なわれる精神療法的アプローチが、個人のストレス対処能力の向上を促し、これを支援する事ものでもあることを考慮すれば、ストレス・マネージメントなどのメンタルヘルスの知見が、うつ病対策の今後の発展に有効である可能性が推察されます。

 今回の講演ではうつ病対策を中心に据えつつ、今日のメンタルヘルスケアの状況について考えてゆきたいと思います。