2008年10月18日 (第2872回)

視覚のなかの文学的想像力

文学部 教授 中川 成美

 文学がきわめて想像力の領域と関係深いことは自明のことと言えますが、文字媒介に巻き起こるイメージの発生のみが文学を支えているわけではありません。私たちの日常に潜むさまざまな事象や出来事、また視覚的な経験は、文字媒体を通したときに勝手に作動して、私たちの想像領域に深く食い込んでいきます。この視覚を通じた想像力の拡張と、文字媒体が介在して起こる不思議な視覚的体験は、いったい何をあらわしているかということをこの講座で考えてみたいと思います。

 自分の身体的な経験として味わうような想像力をひとまず「文学的想像力」と名づけ、その「文学的想像力」の生成にまつわることを、多和田葉子、笙野頼子、松浦理英子、姫野かおるこらの現代女性作家の作品から探っていきたいと思います。彼女らが描く小説世界は実は一方に大変に豊穣な視覚イメージの発生を誘い続けていますが、映像や音楽にも及ぶ内的想像力という認知行為の中で文学はどのようにこうした視覚の経験に作用しているのかを明らかにしていきたいと考えています。