2008年12月6日 (第2878回)

イメージと表現 ―「ドラマ」の観点から―

文学部 准教授 岡本 直子

 心理療法では、クライエントは言語的・非言語的な表現を行うが、表現しているうちにクライエント自身が思ってもみなかった表現に至ることも少なくない。このような表現、すなわち、それ自体が感情を突き動かしさらなる表現を生むようなものは一体何なのであろうか。

 プレイセラピーや面接における表現を「演じる」というキーワードで考えると、クライエントは演じているうちに虚構の世界を成立させ、その虚構の世界のなかで演じ続けることで、自己の意外な側面と出会うと考えられる。心理臨床の場に訪れるクライエントは皆,「私」の問題を抱えている。この「私」の問題には,「私」という役割を通してのみ表現される側面もあれば,「私以外」の役割を通してのみ表現される側面もある。また,「私」の役割と「私以外」の役割のどちらによっても表現される側面もある。いずれの場合も日常のなかでは表現し難い側面の表現が可能となるのである。

 今回の講座では、このような治療的な体験へとつながる表現を「ドラマ」と称し、心理療法における表現の意味を演劇との類似性に焦点づけて考える。