2009年6月20日 (第2900回)

タイ・チェンマイの山岳少数民族と観光産業

名古屋商科大学経済学部 准教授 石井 香世子

「おばさん、おばさんが最初に就いた仕事って何ですか。」

「乞食だよ。」

「… …。」

「6歳のときにね、両親に捨てられたのさ。タイ・ビルマ国境の町でね。」

 -北タイ。観光客で賑わう街角で、つい先日アカ(族)のおばさんの店先でしたインタビューは、こんなやりとりから始まりました。乞食、女中、お針子…おばさんが生き抜いてきた人生の闇と光を、彼女の店を訪れる日々数百人の観光客たちは、果たして想像できるでしょうか。

 今を生きる「山地民」の人々が辿ってきた半生、今日の生活、そして彼らの胸の内に耳を傾ける。そして、観光産業や国籍制度のあり方を問い直す。-この作業は、一見遠い世界の出来事のようで、実は我々が住む日本社会のあり様と、密接に関係しています。

 どうぞ本講座を、観光産業のあり方を考え直し、また自分自身の観光客としての態度を見直すきっかけとしていただければ、何より幸いです。