2011年7月23日 (第2985回)

研究資源として板木を活用する ~板木書誌学の構築

衣笠総合研究機構 ポストドクトラルフェロー 金子 貴昭

 江戸時代は、商業出版が開花し、市井に浸透した時代です。江戸時代の文芸を研究する場合、多かれ少なかれ、出版された本=板本(はんぽん)を研究資源として扱う必要があります。つまり、江戸時代の文芸を研究する際には、ほとんど無意識のうちに「板本」や「出版」が研究対象に含まれることになります。そのような状況ですから、従来、板本を客観的に観察する方法論として、「板本書誌学」の膨大な蓄積が行われてきました。  現存するほとんどの板本は、活字ではなく、板木(はんぎ)で印刷されています。軽くて複写も簡単な板本とは異なり、板木は大きくて重たくて真っ黒な、非常に扱いづらい物体です。その扱いづらさも相俟って、これまでの研究において、板木は研究資源として十分に活用されてきませんでした。

 本講座では、板木の扱いづらさを克服するためのデジタルアーカイブ活動について報告します。また、板本だけを見ても分からないこと、板木を見れば分かることを紹介しつつ、研究資源としての板木の価値を探っていきます。さらに、板本書誌学をより強固にするための「板木書誌学」構築の必要性についても述べたいと思います。

聴講者の感想

 板木-ハンボクと読んでいる程度の知識レベルでしたが、板本からは"分からない""分かりにくい"情報が、板木をよく観察・分析することにより、新たに解明できることが、本日のお話から理解できました。

 入木の木の節、異なる紙質の混在も板木側に原因があるとの着眼は、研究の成果でしょう。今後の板木の研究を通じて、今まで知られていない事実が表われることを期待します。

 板木撮影のライティングなど、いろいろと苦労も多いようです。がんばってください。