2011年8月6日 (第2987回)

日本のアスベスト問題

立命館大学政策科学部 教授 森 裕之

 わが国では、近代以降の工業化・都市化にともなって、アスベスト(石綿)が耐火や耐熱等の目的で約1,000万トンも使われてきました。その用途の7割以上は建材に用いられています。アスベストは曝露後10年以上の潜伏を経て、石綿肺、肺がん、悪性中皮腫等の疾病を引き起こすため、現在は一部の例外を除いて法律で使用が禁止されています。しかし、既存のアスベスト含有製品は建材や工場設備・船舶・発電所等の断熱材の形でいまだに大量に残存しており、これらから発生するアスベストによる被害が危惧されています。過去のアスベストによる被害については、労働災害補償や石綿健康被害救済法によって措置されていますが、その内容は十分ではなく、すでに50以上の裁判が起こっています。2011年3月に発生した東日本大震災によって大量の建築物等が被災し、アスベストによって汚染された倒壊建築物や瓦礫等が今後本格化する解体・廃棄等の過程で深刻な被害を発生させる危険性があります。アスベストをめぐる様々な政策的課題を通じて、こうした問題を考えることが重要です。

聴講者の感想

 東日本大震災のがれきの処理で、危険なアスベストの対応が、かなり無防備である実態の説明を聞き、大変ショックでした。アスベストによる中皮腫の被害が1964年の国際会議で確認されながら、日本の政府は規制の遅れと不十分さで全面禁止の処置をとられなかったのが腹立だしい限りです。

 「政府と企業の”癒着”」は今の原発問題ともだぶって見えます。国民の健康と安全を守るためにも、本日のお話の内容にもっと関心を持ち勉強しなければと痛感した次第です。