2012年1月28日 (第3003回)

魔女は空を飛ぶ~異界の者へ~

平安女学院大学国際観光学部 特任教授 高橋 義人

 「魔女は中世に異端審問官によってでっち上げられた気の毒な女性たちである」。 魔女をこう理解している人は多いでしょう。しかしここには3つの誤りがあります。第一に、魔女狩りが頂点を迎えたのは16・17世紀のこと、つまり中世ではなく、ルネサンスからバロックにかけての時代でした。第二に、「魔女」にされた人たちの1割は男性で、「魔女」という言葉は正しくありません。第三は、たしかに「魔女狩り」の犠牲者の大半は、身の覚えもないのに「魔女」にでっちあげられてしまった人たちだったものの、一部、自分は本当に空を飛び、野原でご馳走を食べ、若い男たちと楽しいことをした、と主張していた女性たち、あるいは空を飛んで野原に行き、そこで悪い鬼たちと戦い、今年の村の収穫が豊作になるように努めた、と主張していた男性たちがいたのです。近年では、このように「自分は本当に空を飛んだ」と主張していた人たちに関する研究が進み、魔女狩りの研究は一変しつつあります。空を飛ぶ魔女。その背後には、大昔のヨーロッパの農民たちの悲惨な生活、豊作のために必死に生きるすがたが浮かびあがってくることでしょう。

聴講者の感想

 グリム童話に元々興味があったため、「魔女は空を飛ぶ」というテーマにひかれて今日は聴講させて頂きました。現在は大学で日本の説話について学んでいる者ですが、非常に面白かったです。初めて知る内容ばかりでしたが、理解しやすかったですし、ヨーロッパほど日本から遠く離れている土地でも共通点を見出すことができるのだなと思いました。貧しい農民が魔女裁判にかけられていることが多かった、おそらく薬物を使っていたのだろう、というお話については、いつの時代も弱い立場の人というのは憂き目をみることが多いのだなあと感じました。