2012年1月21日 (第3002回)
人種越境の物語~別の人間になれるのか~
城西国際大学人文科学研究科 客員教授 風呂本 惇子
アメリカでは、奴隷制時代から1960年代にいたるまで、肌の色とは関係なく、先祖にアフリカ系の人がいれば、つまりたとえ32分の1であろうとアフリカ系の血が入っていれば「黒人」と見なす社会的慣習がありました。人種差別の厳しいその社会で、外見上「白人」でありながら「黒人」として抑圧される人々のなかに、当然、より生きやすい人種の側への移動を試みる現象が生じました。出自を隠して「白人」としてふるまうのです。秘密裏に行われるこの「移動」を、”passing”と呼びます。 これを成就するには、生まれ故郷や親きょうだいとの絆を絶ち、発覚の不安と日常的に闘いつつ、それまでの自分とは違う新たな人物に成り変っていかなければなりません。ここにアメリカ特有の「変身」のテーマがあります。”passing”を扱う小説や映画を時代順に紹介しながら、「人種越境」の意味の変遷を考え直してみたいと思います。
聴講者の感想
初めて土曜講座を聴講させていただいた、立命館大学の学生です。大学の授業以上に活発な質疑応答、聴講者の方々の詳しさに驚きました。
「黒人」に関するイメージは日本でもジェネレーションギャップがあると思います。山田詠美さんのように黒人との性愛を描いた小説や、映画「天使にラブソングを」のように黒人女性が生き生きと描かれている物語を見て育っている私~親(22~48才)の世代では、黒人に対する偏見はほとんどないように思えます。