2012年1月14日 (第3001回)

狼に変身する女たち~人間と動物~

立命館大学文学部 教授 ウェルズ 恵子

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 美しい人間の女に変身する雌狼をテーマにした、一群の幻想物語があります。 それを私は「オオカミ女物語」と名付けましょう。狼女は、ハリウッド映画に見られるような気味悪いオオカミ男の女性版ではありません。 むしろ、普通の女性に隠された分身を幻想の中に呼び出すような、影と輝きの存在です。深い森から現れる白い雌狼が、 満月の夜に変身し、ひとりの男性を虜にします。彼女は人間と自然との境界で、愛する男性を餌食にします。 一見通俗的なプロットのようですが、すぐれた狼女物語には、人間による自然の迫害や社会での女性に対する抑圧について、深い洞察があります。 また、女性性を畏怖し耽美的に憧れる、文学的な描写も大きな魅力です。狼女物語の起源は、ギリシア神話の時代から西欧で語り継がれ信じられてきた 人狼(じんろう)伝説にさかのぼることができます。もちろん、吸血鬼物語とも関連しています。 本講座では、読み応えのある狼女小説をいくつかご紹介し、「狼に変身する女性」の文化的背景や現代とのつながりを、映像を交えてわかりやすくお話ししたいと思います。

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聴講者の感想

 3年前まで東京で大学生をしており、卒業論文が狼男伝承の研究だったので、今回の講座を名古屋から聞きに来ました。自然を“人の入り込めない悪の世界”として動物なども悪の手先のように扱う中世からのキリスト教的な文化の元で、今日のホラー映画のような人物像まで育て上げられた狼男とは違い、狼女は、人間の本質というものを描き上げることで産まれた、狼男とはまったく別物の存在であるということがわかりました。

 人狼伝説を「人と動物(オオカミ)の関係」で調べていくと、自然を恐れおののく中世のヨーロッパと、自然をうやまい共存しようとしていた日本文化の違いを知ることもできます。今回の「女性と変身」という観点から見た講座を聞き、改めて人狼伝説を深く探究してみたいと思いました。