2011年12月17日 (第3000回)

ヨーロッパにおける国境と移民

立命館大学政策科学部 教授 安江 則子

  1989年のフランス革命200年祭を私はパリで迎えた。フランス留学で見たものは、様々な人種から構成される新たなヨーロッパであった。

  EUは、人・モノ・サービス・資本が自由移動する単一市場を創設するとともに、加盟国国民にEU市民権を付与して平等な待遇を保障しようとしてきた。さらに、シェンゲン協定によって域内国境検問が撤廃された。その欧州諸国は、国境をめぐる新たな危機に直面している。北アフリカの革命から逃れた人々は、イタリアのランぺルドゥサ島に漂着した。これら約3万人の難民・移民をどう扱うかは大きな議論になった。人権重視をソフトパワー外交の方針としてきたEU諸国は難しい選択を迫られている。

  他方で、日本と同様、高齢化社会を迎えた欧州では、移民の若い労働力を必要としている。高技能労働者がアメリカへの移住を求めるのに対し、欧州では家族呼び寄せなどによる低賃金労働者が多く、偽装家族防止のためにDNA鑑定も用いられている。また、ブルーカード指令による高技能労働者の招きいれも試みられる。欧州における人の移動の動向を明らかにし、テロや移民暴動が多発するグローバル化時代に、改めて国境の意味を考える。

聴講者の感想

  土曜講座3000回おめでとうございます。
ヨーロッパの域内国境検問の問題などが深刻だということを初めて知りました。北アフリカの民主革命の余波がヨーロッパ難民・移民問題にまで及んでいることが興味深かったです。ヨーロッパ諸国もそれぞれ思惑があって、複雑な事情があるということを感じました。